第十章 霊媒師事務所の新入社員

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「社長……知らなかったとはいえ、無神経なことを言ってすみませんでした」 前職、通信会社でインセンティブのつく営業から、手当の無いお客様相談センターに異動になったのを機に元カノにフラれたことのある僕は(その時、色々……本当に色々言われた)、なんだか社長の気持ちがわかるような気がした。 男はいつだって好きな女性に喜んでもらいたいと思っているけど、それがうまくいかないことだってある。 おそらく僕も社長も悲しいかな、モテるタイプじゃあない。 よかれと思ってしたことの大半は間違ってるし、車や猫の話になるとバーサク状態で抑えがきかなくなるのだ。 ズーンと重苦しい空気が流れる中、社長が絞り出すような声を出した。 「あやまるな……」 「え?」 「だから、あやまるな!ここであやまられたら余計辛ぇ(つれえ)じゃねぇか!笑え!」 「え?笑うんですか?今?この空気の中?」 「そうだ、笑え、ここはむしろ笑え、馬鹿みてぇに笑え!そうだ、エイミー!弥生の笑い方覚えてるか?アイツ知性のカケラもない感じで『あひゃひゃひゃひゃ!』って笑うだろ?アレで笑え!」 「えぇーーー!確かに弥生さんってそんな感じに笑うけど、イヤですよぉ、できないですよぉ、それに面白くも無いのに笑えないですよぉ」 「ナニ!軟弱な男だな!そこは気合で笑うんだよ!」 「なら軟弱じゃない社長が先に笑ってくださいよ、『あひゃひゃひゃひゃ!』ってー。ホラホラ早くー」 「なにパス寄越してんだよ!おまえが先にやれ!」 「いや、そこはやっぱり社長に先陣切ってもらわないと、僕まだ新人なんで」
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