第十章 霊媒師事務所の新入社員

12/21
前へ
/2550ページ
次へ
僕と社長の壮絶な譲り合いを収束させたのは、さすがの年長者、先代だった。 「んもー、2人ともいい加減にしなさい。今日はユリちゃんの初出勤の日なんだよ?それも初めての就職なんだから入社式……まではいかなくても写真くらい撮ってあげなさいよ」 初めての就職……そっか!そうだった! 僕みたいな転職組とは違うんだ! 普通なら新卒の4月入社なんて会社の主役じゃないか! フレッシャーズの初出勤、そんな貴重な時間を僕と社長のくだらない話で消費する訳にはいかない! そう思ったのは僕だけじゃなかったみたいで、社長もネクタイを締め直しジャケットを整えている。 そして机からデジカメを取り出しながら言った。 「ユリ、悪かったな、今日の主役はおまえなのに。実はな、ウチの会社の連中は全員転職組なんだ。ちゃんとした新卒の子は初めてで入社式なんてしたことがねぇ。だからジジィに言われるまで気付かなかった。かといってこの会社、社長は俺で堅苦しいことは無理がある。だけどユリがせっかく良いスーツ着てきてくれたんだ、ジジィの案ってのが癪にさわるが写真撮って、それからみんなでメシ食いに行こう。ユリの食いたいもんでいいぞ。値段も気にしなくていい。俺のおごりだ!」 おお! さすが社長!太っ腹! とりあえず僕も先行して「ごちそうになりますっ!」と言っておく。 「野郎は自腹だっ!」と吠える社長に「好き嫌いはありません」と返しつつ、僕らは外に出て、社屋をバックにユリちゃんをパシャリ。 大人3人に(1人は幽霊)囲まれての撮影会は、ユリちゃんを緊張させてしまったようで最初の方は実にぎこちない笑顔だった。 だけど途中から大福を乱入させたことで、自然な笑顔を引き出すことができた。 ユリちゃん1人の写真を何枚撮ったかわからないってくらい撮りまくったあと、最後はみんなで1枚撮って記念撮影会は終了した。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加