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「ねぇ、ユリちゃん。実はね、見せたいものがあるんだ。この間みんなでケーキを食べた時の写真なんだけど、」
事務所に戻り、入社に必要な書類の説明が終わったのを見計らい、僕はユリちゃんに声をかけた。
「ケーキの時の写真って……もしかして先週のですか?」
「うん。ユリちゃんのお母さんとお爺さんとお婆さん、それと僕らも一緒にケーキパーティした時ね、すごく楽しかったから、なんとか写真に残せないかなぁって、ダメ元で撮ったの」
持ち帰りの書類をまとめていたユリちゃんの手が止まり、真剣な表情を僕に向けると、床を蹴り、シャーーッと椅子を滑らせてきた。
「それって……もしかして、ママや爺ちゃんや婆ちゃんも写ってる……とか?」
「……うーん……うん……たぶん」
「たぶん?」
「そう、たぶん、としか言えなくてゴメン。あんまり期待しないでね。あの日はけっこう撮ったんだ。だけど……ほとんどなにも写ってなくて、そのうち1枚だけ、」
言いながら僕はスマホをタップする。
画像フォルダからユリちゃんの部屋でケーキを囲む、あの日の写真を表示させた。
そこに写っているのは____
カーテンも家具もない部屋の中。
横倒しにしたキャリーバックに小さすぎるハンカチが敷かれ、その上に大きなイチゴケーキがのっている。
誕生日でもないのにホールケーキの真ん中にロウソクを立てようとしているユリちゃんと、その対面にいるのは座っていても充分デカイ、ツルッパゲの大男。
2人の姿は色鮮やかに鮮明で、生者が持つ確かな生命を感じた。
ユリちゃんの右隣に写っているのは……記憶と合わせてみても、おそらく田所さん。
さらに田所さんの隣には、娘に寄りかかって笑っていたお婆さん。
変わって左側。
こちらは孫命、娘命、妻大好き、メイン言語は筋肉な、チェーンソーの使い手、お爺さんだ。
やはり記憶と照らし合わせてみてもこの位置で間違いないはずだ。
先代にいたっては、場を盛り上げようと電気ツチノコを量産しちゃあ部屋の中に放つのに動き回っていたから、タイミング的に写っていない。
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