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「何十枚と撮ったんだ。でも僕の霊力ではこれが精一杯で____」
最後の幸せな家族写真。
僕の肉眼にはあんなにハッキリ映っていたのに、レンズを通すとその姿は消えてしまう。
電気の集合体である幽霊を写すため、僕は意識的に自分自身を帯電させながら撮った。
電気を帯びた僕と霊体。
微弱な電流が引き合って、ぶつかって、そのエネルギーがレンズに焼き付けられることを願いながら幾度もシャッターを押した。
何十枚と撮った中、たった一枚だけこれはと思う画像があった。
だけど、それはあまりに不確かで曖昧なものだった。
「岡村さん、スマホ、お借りしますね」
ユリちゃんが僕の端末を受け取る手がかすかに震えていた。
ああ、だけど、この写真を見せることは正しいことなのだろうか?
かえって淋しい思いをさせてしまったらどうしよう。
写真の中に写る家族の姿は、個体識別ができない。
家族それぞれが座っていた場所に、柔らかい雲のような白い靄が映り込んでいるだけなのだ。
ユリちゃんは黙ってじっと写真を見詰めていた。
ずっとずっと長いこと、時折画像を拡大させたりしながら、唇をキュッと噛み締め見詰めていた。
「岡村さん、」
長い沈黙のあと、やっと顔を上げたユリちゃん。
彼女は数度の瞬きで大粒の涙をボロボロ零し、口元を歪ませ幼い子供のようにわんわんと泣き出した。
「お、岡村さん、あ、ありがと、ありがと、この写真、ラインで送って、ほしい」
しゃくりあげながら、何度もお礼を言うユリちゃん。
白い靄しか写っていないのに、それでも少しは喜んでくれたのなら、これ以上嬉しいことはない。
「お、岡村さん、すごく、すごく、良い写真です。ママも爺ちゃんも婆ちゃんも、みんな死んじゃったのに、本当なら、もう、会えないはずなのに、あの日、会えただけでも、奇跡なのに、こんな、こんな、良い写真撮ってもらって……みんなすごい笑ってる」
え……!?
みんな笑ってる……?
いや、待ってくれ!
そこに写っているのは白い靄のはずだろう?
それが違うと言うのなら……
その写真、キミの目にはどんなふうに視えているんだい?
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