第十章 霊媒師事務所の新入社員

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◆ 「この写真か、」 社長が件の家族心霊写真をマジマジと凝視する。 ユリちゃん同様、拡大させたり明度を変えたり色々と試してみたが、社長の目から視ても白い(もや)しか確認がとれなかった。 続いて先代。 普段は「このジジィ」なんて憎まれ口を叩く社長でさえ、先代の霊力の強さには一目置いている程の実力の持ち主____なのだが、やはり白い(もや)だけで、ユリちゃんの言う笑顔どころか、個体識別もできなかった。 となると、先代、社長、僕、この3人は、持ち前の霊力に差はあれど、大体同じように視えているということになる。 「そうなんですか……?私にはママも爺ちゃんも婆ちゃんも、みんなの笑っている顔が視えるんですよねぇ」 そう言って首を傾げるユリちゃん。 聞けば肉眼で視る時とほとんど同じで、陽炎のような揺らめきが幽体(からだ)を包み、発光はしているものの、表情(かお)も髪も服装も難なく判別がつくというのだ。 ということは…… 「先代、社長。僕、わかっちゃいました。ユリちゃんって……実は物凄い霊力を持ってるんじゃないですかね?僕達3人なんか目じゃないくらいの。だから僕らには視えない家族の詳細まで認識できるんじゃないかと思うんです」 そう考えれば納得がいく。 ユリちゃんは、お爺さんが亡くなるまで幽霊を視たことがないと言っていた。 たぶん、今までずっと眠っていた霊力(ちから)が、去年はお婆さん、今年になってお爺さんと続けて亡くしたことがきっかけとなり開眼したのではないだろうか? 「んー、その可能性もゼロじゃねぇが、たぶん違う。今からそれを説明するぞ。さて、エイミー。おまえにこの写真はどう視える?」 そう言って手渡してきたのは、ユリちゃんの入社記念で撮った、みんな揃っての集合写真だった。 「これはさっきの……よく撮れてますねぇ、ユリちゃん良い笑顔だ。あはは、社長はやっぱりデカイなぁ、ユリちゃんの3倍くらいありそう。あっ、先代はユリちゃんより少しだけ背が低いんですねぇ、同じくらいだと思ってた。大福は僕に抱っこされて眠そうな顔しちゃって……キャー!カワイイー!」 みんな良い表情(かお)で写ってるなぁ。 この写真2枚プリントしてもらって、1枚は会社、もう1枚は家に飾ろうっと! ……ん? …………あれ? ちょっと待って、そういえばなんでみんな(・・・)写ってるんだ……? 僕は改めて写真に目を落とした。 何度視ても、ニコニコ笑う先代と、眠くて溶けた餅みたいになってる大福が、小さな写真の中にはっきりと写り込んでいる。 両者とも幽霊なのに……どうして?
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