第十章 霊媒師事務所の新入社員

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「だけど社長、同じ写真なのにユリちゃんには家族の姿が視えて僕達には(もや)に視えるとか、僕に大福は視えるけど社長にはこれもやっぱり(もや)に視えるとか、その差はどうして生まれるんですか?」 「私もわかりません!」と、ユリちゃんの援護射撃を受けながら社長に質問すると、 「それはな、写っている霊体が発するエネルギーを、視る側がどの程度読み取ることができるかによって変わるんだ。基本的には写っている霊と視る側に面識がなけりゃ人の形と認識することは難しい。なぜかって?写真から発する霊のエネルギーには幽霊(こじん)を特定する情報……とまではいかないが、手掛かり程度のものが含まれている。それを読みるには、霊を知っていたほうがたやすいからな」 僕とユリちゃんは顔を見合わせ「わかった?」「イマイチ」とコソコソ話していると、社長が更に続けた。 「たとえばだが……エイミー、ユリ。今から言うワードで誰を思い浮かべる? “イケメン” “最強” “走り屋” “ダンサー”…… 」 「「……誰?」」 「ばっ!わかんねぇのかよ!ユリはともかくエイミーはわかるだろ!?」 「いや、ちょっとわかんないですね。……だけどもしかしてこの流れ。まさか社長とか言わないですよねぇ?いや、まさか、そんな、」 「まさかってなんだ、大正解だよ、俺だよ。最初の “イケメン” の時点でわかるだろうが」 大真面目に言ってのけるツルッパゲにユリちゃんポカーンとしている。 まあ、無理はない、けど慣れて!ウチの社長は常にこんな感じだよ! 「“最強” と “走り屋” あたりでもしかして……ってなりますが、わかりにくいですね。少々修正させていただくと、“ツルツル” “筋肉” “格闘系” “悪ふざけ” あたりで、社長のこと知ってる人ならわかるかもしれません」  ナヌッ!?と僕を睨む社長だが、ユリちゃんの「あ、わかったー!」でぐぅの音も出ないようだ。 「“ツルツル”ってなんだ、まあ確かにそうだけどよ。とにかくだ、こんな感じの曖昧な手掛かりが写真から発せられる。もちろん今みてぇな単語が視えたり聞こえたりするわけじゃねぇ、感じるといった方が適切だ。で、その識別ヒントとなるエネルギーを受けると、視る側で持っている霊の記憶と相まって脳内で補足補正がかけられる。その結果、(もや)ではなく個体識別が可能になるんだ」 「「なるほど……」」 「なんとなくわかったか?」
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