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どうして自分にだけ家族の姿が視えるのか、それがわかったユリちゃんは嬉しそうに目を細め写真を見詰めていた。
家族の姿のその奥に、楽しかった思い出や、自分に向けられていた深い愛情を噛み締めているのかもしれない。
「岡村さん、写真ありがとうございます。大切にしますね」
えへへ、なんてクシャっと笑うユリちゃんはまだまだ少女で、本当なら家族に守られ平凡な幸せの中にいるべき年齢だ。
幼少期の父親からの暴力、自分を庇って死んでしまった母親、引き取ってくれた祖父母の相次いだ死、そして今は上京で友達とも離れてしまい、天涯孤独でたった1人アパートで暮らしてる。
家族のいない淋しさ、辛さ、不安、そういったものに常に追われるはずなのに、この子はいつだって笑ってて。
キミは本当に優しくて強い子だ、でもね……
ねぇユリちゃん。
この会社って変わってると思わない?
先代は幽霊だし社長はあんなだし、僕も最初はびっくりした。
でも人は悪くないんだ……って、それはもう知っているか。
それとね、ユリちゃんはまだ会ったことはないけど、弥生さんっていう口が悪くて大酒飲みで、それでいてすごく優しい先輩もいるんだ。
弥生さん、ユリちゃんが入社するのをすごく楽しみにしてたんだよ。
そのうちユリちゃんに会ったら、弥生さんは大喜びすると思う。
ねぇ、ユリちゃん。
僕とユリちゃんは一回りも年が離れているけど、3月入社の僕とは、ほぼほぼ同期の同僚だ。
もしも……この先なにか悩んだり辛いことがあったり、そんな時には遠慮なく相談してほしい。
僕だけじゃあない、先代も社長も弥生さんも、それに大福だっている。
だからね、ユリちゃんは独りじゃない。
なんたって僕らは、キミを守るようにお爺さんから頼まれてるしさ。
ねぇ、ユリちゃん____
ああ、くそ!
こういう気持ちはどうしてうまく伝えられないんだろうな。
こんなふうに思っている人間もいるのだから安心してほしい、頼ってほしいと言いたいだけなのに、いざ言葉にしようとすると気恥ずかしくて勇気が出ない。
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