第十一章 霊媒師 キーマン

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次に聞くのは、依頼主にとって対象物がどのような存在であるかということだ。 指輪、手紙、写真といったものから、サラリーマンが酔っ払って紛失した重要書類入りのカバンまで失せ物探しは多種多様。 当然、依頼主が抱く対象物への思いも様々で、愛着だったり、幸せな感情だったり、ほろ苦い思い出だったり、単純にどうしても必要だったり。 そういった強い思いというのは、形ある物に容易に溜まる。 溜まり溜まれば、やがてそれは念に変わる。 人の(または動物の)思いが念となって宿るなら、その人が対象物にどんな思いを、どんな感情を抱いていたかが大きな手掛かりになる。 物に対する愛情が陽の念を造り、憎悪は陰の念を造りだす。 だからこそよくよく聞くのだ。 依頼者の気持ちが練り込まれた念を探し出すために。 ◆ 「細かいことを言えばキリがないし、いっぺんに説明しても混乱するだけだから、まずは写真。それから依頼主の思いを聞き取って、対象物からどんな念が発せられているか予想すること。その予想した念に近いものを捕捉して辿っていくんだ」 「なるほど。それでその念というのは、どうやって見つけたらいいんでしょう?電流みたいに目に視えるといいんだけど」 「それがねぇ、霊媒師によって目に視える人もいれば、匂いでわかる人もいる、視えないし匂いもないけど気配を感じるって人もいて、それぞれなんだよねぇ。岡村君はどうなんだろう?視覚、嗅覚、感覚のどれかなのか、それともまったく別のものか。そこをハッキリさせないといけないね。手探りでいいから試しにやってみてよ」 先代からの説明を聞き終えた僕は、さっそく湯呑み茶碗の念を探ってみることにした。 「自分に合った念を見つける方法か……」 とりあえず視えるかどうか試してみよう。 僕は事務所の中を隈なく見回してみる……なにか視えないだろうか? うーん、それっぽいものはなにもないなぁ。 気を取り直して次は匂いだ。 スンスンスンスンと部屋の中を嗅いでみた……けど、これも不発。 ならばお次は気配を探せと、神経を集中させてみても……やっぱりなにも感じない。
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