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「チェリーパイ……いや、エイミーだったな。俺の名はキーマン、あらゆる事件の鍵を握る男、とでも覚えてくれ」
スッと差し出された指先はネイルが施され、それはキーマンさんが着ているシャツと同じ、パイソン柄だった。
ス、スゴイ……僕、今までの人生で一度もネイルなんてしたことない。
男性でもおしゃれな人は違うんだなぁ。
なんて、パイソンな爪に釘付けになってしまった僕は、ツーテンポ程遅れ慌てて握手に応じた。
「は、初めまして。先月入社しました新人の、」
僕はここで躊躇した。
ごくごく一般的に「新人の岡村英海です」と自己紹介するべきか、それとも自分のことを迷いなく「キーマンだ」と名乗るキーマンさんに寄せて、「エイミーです」と言うべきか。
あんまり黙っているのも失礼だし……うっ、どうしよう!
「新人の、岡村……ェィミィ……です」
僕は悩んだ結果、合体させてみることにした(“エイミー”と名乗るところで声が小さくなってしまったが)。
「……ずいぶんピアニッシモなヴォイスだな。エイミーはシャイボーイなのか?だがOKだ。人は誰もが陽気でなくちゃいけないなんて法律はない。シャイボーイ?シャイガール?アゥイェッ!ウェルカムだ!」
な、なんか、もう、スゴイ。
なにがスゴイって……総合的にスゴイ。
「あ、あの、さっきキーマンさん、現場のハシゴをしたって言ってましたよね?」
「ああ、してきた。人使いの荒いボスからのテレフォンで、最初の現場のフィニッシュ前から、もうネクストをアサインしてきやがった!信じられるか?チェリーパイ、おかげで俺は21日間もコンティニューだ!」
エイミーからチェリーパイに戻っちゃったよ。
それにしても……むぅ……言ってることめちゃめちゃわかりにくいけど、要は1件目の現場で仕事してる最中に社長から電話があって、次の現場を頼まれた、そのせいで21日連続勤務になった、ということでいいのかな?
「だがな、チェリーパイ」
「……岡村です」
「どんな無茶でもボスの命令は絶対だ。ボスの命なら渋谷のスクランブル交差点でサンバだって踊ってみせる。あの人には恩があるからな」
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