第十一章 霊媒師 キーマン

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「チェリーパイ……いや、エイミーだったな。俺の名はキーマン、あらゆる事件の鍵を握る男、とでも覚えてくれ」 スッと差し出された指先はネイルが施され、それはキーマンさんが着ているシャツと同じ、パイソン柄だった。 ス、スゴイ……僕、今までの人生で一度もネイルなんてしたことない。 男性でもおしゃれな人は違うんだなぁ。 なんて、パイソンな爪に釘付けになってしまった僕は、ツーテンポ程遅れ慌てて握手に応じた。 「は、初めまして。先月入社しました新人の、」 僕はここで躊躇した。 ごくごく一般的に「新人の岡村英海(ひでみ)です」と自己紹介するべきか、それとも自分のことを迷いなく「キーマンだ」と名乗るキーマンさんに寄せて、「エイミーです」と言うべきか。 あんまり黙っているのも失礼だし……うっ、どうしよう! 「新人の、岡村……ェィミィ……です」 僕は悩んだ結果、合体させてみることにした(“エイミー”と名乗るところで声が小さくなってしまったが)。 「……ずいぶんピアニッシモなヴォイスだな。エイミーはシャイボーイなのか?だがOKだ。人は誰もが陽気でなくちゃいけないなんて法律はない。シャイボーイ?シャイガール?アゥイェッ!ウェルカムだ!」 な、なんか、もう、スゴイ。 なにがスゴイって……総合的にスゴイ。 「あ、あの、さっきキーマンさん、現場のハシゴをしたって言ってましたよね?」 「ああ、してきた。人使いの荒いボスからのテレフォンで、最初の現場のフィニッシュ前から、もうネクストをアサインしてきやがった!信じられるか?チェリーパイ、おかげで俺は21日間もコンティニューだ!」 エイミーからチェリーパイに戻っちゃったよ。 それにしても……むぅ……言ってることめちゃめちゃわかりにくいけど、要は1件目の現場で仕事してる最中に社長から電話があって、次の現場を頼まれた、そのせいで21日連続勤務になった、ということでいいのかな? 「だがな、チェリーパイ」 「……岡村です」 「どんな無茶でもボスの命令は絶対だ。ボスの(めい)なら渋谷のスクランブル交差点でサンバだって踊ってみせる。あの人には恩があるからな」
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