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なんだこのシート……包まれる感がすごい。
後ろから抱きかかえられている、というのがピッタリくる感覚だ。
とはいっても、僕は男だから誰かに抱きかかえられた事はないけど。
あ、小さい頃は家族の誰かしら膝の上に乗せられてたから、その時の感じに似てるかな。
僕は今、社長の車の助手席にいる。
社用車ではなく通勤にも使っている社長個人の車なんだそうだ。
スポーツセダンの3ナンバーで、銀色の車体は滑らかな曲線を残しつつ、それでいてゴツゴツと骨太い。
「これ元々親父の車だったんだ。俺が免許を取った時に拝み倒して譲ってもらったランサーエボリューションⅤ。もう15年一緒に走ってて、だいぶガタもきてるけど手をかけてやりゃまだまだ走る良い車だ。去年は思い切ってシートを変えた。レカロ製だからクソ高かったけど、どうだ? エイミー座った感じサイコーだろ!」
レカロってなんだ?
シートのメーカー名?
とか思いつつも座り心地の良さには賛同した僕に延々と車談義が続く。
やれ正面から見た顔(?)がガ○ンダムっぽいとか、ギアチェンジはエンジンの音を聞いて判断しろとか(僕はオートマ限定だからマニュアル車の事はわからないし)ケツのリアウィングは美しいだけじゃなく高い機能性を兼ね備えているとか……ほっとくと現場に着くまで止まらなそうな勢いだったのを制してくれたのは、後部座席からぬぅっと顔を出す先代だった。
「清水君、車の話はもういいから岡村君に依頼内容と現場に着いた時の流れを教えてあげて。大体清水君は車の話になると長いんだよ。先月だっけ? せっかく女の子とドライブに行ったのに、ずーーーーーーっと車自慢しちゃって、それ以降連絡取れなくなっちゃったのは」
「なっ! ジジィ! 霊視やがったな! ち、違うぞ! あれは連絡取れなくなったんじゃなくて、こっちからしてないだだけだっ! つーか俺のプライベートを霊視な!」
「別に意識して霊視した訳じゃないよ。ただ一時すごーーーーーーく落ち込んでたでしょ? その時、清水君の気持ちがダダ漏れになってたからねぇ。視たくなくても視えちゃったんだよぉ。私だって、かわいい社員の情けない姿なんか視たくなかったんだからねッ!」
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