第十一章 霊媒師 キーマン

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まだそんな体力が残ってるのか?ってくらい勢いよく跳ね起きたストロングガイは、「残りあと17個!」なんて言いながら草むら方向に顔を向け、右に左にキョロキョロしながら鼻をヒクヒクさせていた。 「ヘイ、ストロング。どうした?くしゃみでもでそうなのか?」 もう6月でスギ花粉はないだろうが、山の中に生える、たくさんの植物のどれかにアレルギー反応を起こしてるのかもしれない。 「違う、くしゃみじゃねぇよ。俺さ、モノ探す時は匂いで追うんだ」 「匂いで追う?」 「そう、探す時は依頼主の気持ちをよく聞いて、どんだけ大事なモノなのか、どんだけ取り戻したいモノなのか、その想いを、その情報を匂いに変換する。たいていの失せ物は、依頼主が発する匂いと同じ、もしくはよく似た匂いを発してるからな、俺はその匂いを追えばいい」 「依頼主……?想いを匂いに変換……?ウエイト!ちょっと待ってくれストロング、俺にはさっぱり意味がわからない」 「悪い(わりい)、ま、そうだよな、わからないよな。まあ、なんだ。俺はモノを探す時だけ犬になるんだ。犬って嗅覚強え(つええ)から探しモノが得意だろ?それと同じだ。仕事でな、たまーに失せ物探しをすることがあるんだよ。そん時はもっと広い範囲で探すことの方が多い。だからな、今夜みてぇにたかだか半径数メートルの失せ物探しなんて楽勝だ」 「ストロング、あんたのワークって……」 「ああ?なんとなくわかったか?」 「たぶんな、ビンゴだろうよ。あんたのワーク……ズバリ便利屋だな?」 「便利屋!?……ああ、んー、まあ、遠からず……か?」 「そのマッチョボディ、便利屋なら納得がいく。ゴミ屋敷の大掃除で2tトラック3台分運び出すとかあるもんな。ティーヴィーショーで見たことがあるよ」 「んー、なんかスゲェ違え(ちげえ)けど、ま、いっか」 「イエァ、ガイが便利屋なのはわかったが、人の想いを匂いに変換ってのがdon'tget it(ピンとこない)だ。ただ……なにかを探している時に匂いがするってのはわかる。そんなの俺だけだと思ってたが、そうじゃなかったんだな」 「なに……?鍵さんも……匂いが分かるのか?」 「ああ、匂うよ。理由はわからないが昔からそうだ。どうした?ストロング、そんな顔して。それはあんたも同じだろ?ま、俺の場合は匂いを追うとかそんなんじゃない、ただ匂うだけだがな」 「……鍵さん、それはどんな匂いがするんだ?」 「どんなって、」 「なあ、それ、探すモノによって匂いは違うのか?匂いが強くなったり弱くなったりはするか?探しモノ以外でも匂うのか?匂いでモノは見つかるか?」 「ウェイウェイウェイ!ウェイト!どうした?ストロング!そんないっぺんに……アゥ、わかったぞ、ガイはアングリーなんだな?それだったら自分1人で探せただろ!ってことだな?……悪かったよ、ストロング。俺だって身体が動けば、」 「違う!いいから答えてくれ!どうなんだ?匂いだよ匂い!今も匂うのか?あんたの大事な雑貨の匂いはすんのかって聞いてんだ!それからこれは怒ってる訳じゃねぇからな!」 「ス……ストロング、それ絶対怒ってるだろ。 ああ、わかった答えるよ。今だって匂ってるさ。どんな匂いって……チョコレート、カスタード、ストロベリー……早い話がスィーツの甘い匂いだ。俺がなにかモノを失くして焦っていると、どこからともなく甘い匂いが漂ってくる、甘い匂いを嗅ぐとハッピーになる、ハッピーになると焦りが消える、焦りが消えるとモノも見つかる」
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