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◆
「これが____」
たっぷりと10秒近く間を置いて、リズミカルに床を蹴るブーツが窓際に到着した。
春の陽射しがガラスを抜けて入り込み、キーマンさんの茶色い髪を金色に変えている。
身体にフィットした服の下には、細身ながらにしなやかな筋肉が覗えて、まるで芸術作品のような後ろ姿に僕は数瞬目を奪われた……が、しかし、あくまで数瞬。
せっかくの芸術品ことキーマンさんは、クルリとこちらに振り向くつもりが勢い余ってクルクルクルっと三回転後にビシッと静止。
そして、
「これが俺とボスが初めて出会った、ザ・ナイトオブフェイトのすべてだ!」
と、真っ直ぐに僕を見た、……見た……見てる……見てる……まだ見てる……ずっと見てる……ちょー!見すぎー!
ただでさえ眼力がスゴイのに、そんなにジッと見詰められたら……僕、生者だけどその眼に射ぬかれ滅せられちゃいそうです。
「俺はあの夜を忘れない。ただ通りかかっただけのボスは俺を見捨てて引き返すことだってできたんだ。だけどそうはしなかった。ケガをした俺を助け、商品を探してくれた。ボスにとってなんのメリットもないのにだ。なあ、わかるか?チェリーパイ。俺はあの夜救われたんだ。けどな救われたのは事故って動けなかった俺だけじゃない。無視されて、モノを隠され、誰にも相談できずに泣いていた、幼かった俺も一緒に救ってくれたんだ、」
そうか……小学生だった頃キーマンさんは苛めにあっていた。
隠された大事な物を、たった独りで毎日毎日探していた。
誰も手伝ってくれない、誰も心配してくれない、誰も口をきいてくれない。
無言の悪意とたった独りで闘ってきたんだ。
そんな過去があるキーマンさんにとって、自分を助けてくれて、一緒になって商品を探してくれた社長は、幼かった頃に切望した“友達”そのものだったのではないだろうか?
「ファイブデーイズ、ホスピタルに入院した俺はずっと考えていた。助けてくれたボスにどうやって恩を返したらいいのか、どう表現したらこの感謝の気持ちが伝えられるのか、ってな」
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