第十一章 霊媒師 キーマン

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◆ キーマンさんは社長の後押しもあって両方を諦めなかった。 霊媒師の仕事は毎回現場がバラバラで、体力的にも精神的にも大変だ。 現にキーマンさんは、今回2件連続で現場入りしたものだから21日間拘束されていた(とはいえ現場で調整して週に2日は休めたらしいけど)。 そんなハードな労働の中、合間を縫って雑貨の仕入れに行ったり、ハンドメイドで人形を作ったり、商品が売れれば宅配便の手配やら、これまた霊媒師に負けず劣らず大変そうだ。 いくら社長に恩があるとはいえ、そんな生活を3年もしているわけだが、挫けそうになったりしないのだろうか? 「挫ける?それはノンだ、チェリーパイ。この仕事はけっこう俺に合っている。それにな、この仕事についたからこそネットショップを始めた。リアルな店舗はないが、俺は”キー&ストロング”のオーナーで、いつか自分の店を持ちたいと思っていたドリームも叶った。ミリタリープリンセスというドールをハンドメイドするきっかけにもなった。ボスに出会ってたくさんのハッピーがやってきたんだよ!」 イエァッ!と白い歯をキラキラさせて熱く語るキーマンさんは、ハッピーライフをエンジョイしてるようで(あれ……?僕、なんかキーマントークに毒されてない?)、聞いている僕らまで楽しくなってくる。 「まぁ、実際____」 と、口を開いた社長がこう続けた。 「キーマンはよくやってくれてるよ。今までで俺がスカウトしたのはキーマンだけだ。コイツと一緒に働きてぇって本気で思ったんだ。けど……ははっ!初めてキーマンを連れてきた時のみんなの顔、特にジジィの驚いた顔は忘れらんねぇ」 「そうでしたねぇ、私もびっくりしましたよ。ずいぶん個性的な子が来たなぁっていうのと、その群を抜いたスキルに気持ちが高まってねぇ。若い子風に言うなら、ホラ、なんでしたっけ?テン……テン……テン……そうだ!テンドン爆上がり!」 思い出したぁ!みたいな得意顔の先代ですが、それ、違いますって。 天丼(テンドン)じゃなくてテンションでしょう? ああ、もう、先代のボケにユリちゃん萌えまくりだよ。 「ジジィ!無理して若ぶるな!天丼爆上がりってどんなだよ!天丼の値上げが?爆上がりって一気に100円値上げとかそんなんか?」 容赦ない社長のツッコミに僕もユリちゃんも笑っちゃう、ついでに人語がわかる大福も二又に割れた尻尾をフリフリしながら肉球パンチで先代にツッコんでるのがもう……キャー!大福カワイイー! みんなからの総ツッコミに照れてモジモジする先代に、大福がピョンと飛んで肩に乗っかった(ちょっとジェラシー)。 「……そうか、」 聞こえるか聞こえないか、そんな小さな呟きに僕はキーマンさんを見た。 今の声はキーマンさんに違いない。 彼はゆっくりと事務所内を見渡し、そして溜息をついた。 「どうしたんですか?」 僕がキーマンさんに尋ねると、淋しそうな顔でこう言った。 「先代……いるのか?」 「え……?そこにいますけど、」 「そうか……いるんだな。ボーイ、チェリーボーイには先代が視えるのか?……ああ、すまん。視えるに決まってるよな。霊媒師なんだから……羨ましいよ」 ちょーーー!! さっきから僕のこと、”ボーイ”とか”チェリーパイ”とか呼び方コロコロ変わってたけど、その2つ合体させないでくださいよーっ! ち、違うし!そんなんじゃないし! って……あれ? ちょっと待って? キーマンさんにも視えるでしょう? だって先代、同じ部屋にいるんだよ? すぐそこにいるんだよ? キーマンさん……なに言ってるの? 「なあ、チェリーボーイ、」 「チェリーパイです」 なんて呼んでもいいからチェリーボーイだけはやめて!
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