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「先代は元気そうか?」
「……? はい、すごく」
「そうか、それなら良かった。で、先代は今どこにいる?」
「先代は……そこにいるじゃないですか。社長とユリちゃんの間で、大福を、白い幽霊猫を肩に乗せて立ってるでしょう?」
「白い幽霊猫?幽体はこの建物に入れないはずじゃなかったか?」
「あの猫は特別なんです。あの仔は大福といって、僕と一緒に暮らしてる大事な幽霊猫なんです。最初は結界に弾かれて入れなかったんですが今は入れます。先代があの仔だけは入れるようにしてくれました」
「相変わらず優しいな、先代は。そうか……そこにいるんだな」
「あの、失礼ですがキーマンさんに先代の姿は……」
「ああ、bad luckだが、俺には先代が視えない。いや……先代だけじゃない。チェリーボーイのラブキャット……ビッグラッキーもだ」
ビッグラッキー?
ああ!大福ってことか!
てか、キーマンさんチェリーボーイやめて……ホントに!
ツッコミたいけど、なんだかすごく落ち込んでる様子で言いにくい。
そんなことより……キーマンさんには先代や大福が視えていない、と言っていた。
よくよく思い出すと、先代のボケにも無反応だったキーマンさんは、先代の声も聴こえないのかもしれない。
それって____
「キーマン!」
俯くキーマンさんの肩を、後ろからガシッと組んできた社長。
力無く顔を上げ淋しそうに笑うキーマンさん。
僕はなにも言えずに2人を見詰めていた。
「ボス……先代がいるんだってな」
「おぅ、そこにアホ面で立ってるよ。さっきもな、若いヤツのマネして”テンション爆上がり”って言おうとして、”天丼爆上がり”とか言ってんだぜ?ジジィが無理して若ぶるから間違うんだよ、あははは!」
またもやデリカシーの欠片もなく先代をディスりまくる社長に、スマホをポチポチしながらユリちゃんが言った。
「でも社長。駅前の天丼屋さん、来週からメニュー一律50円値上げみたいです」
「なぬ!?一気に50円も!?庶民の敵かよ!ゆ、許せん……!」
「ホラみなさい~!私はねワザと間違えたんですよ。そろそろ天丼屋さんが値上げするかなぁって思って!ね!ね!当たったでしょう?」
先代、なに乗っかってきてるんですか。
さっきの”天丼爆上がり”はナチュラルに間違えましたよね?
「ケッ!キーマンなんか言ってやれ!ジジィがよ、”テンション”と”天丼”間違えたのは、駅前の天丼屋が値上げすること知ってたからワザとだったとか言い出してんだよ。んな訳あるか!普通に間違えてたじゃねぇか、なぁ!」
「先代のユーモアセンスは最高だからな。それに、ヤングカルチャーにアンテナを張っているのはいいことだよ。好奇心を失わず、若い俺らに寄り添ってくれて____」
キーマンさんは言葉を詰まらせ、僕らに背を向けて上を向いた。
ズズっと鼻をすすり時折目を擦っているのは____泣いているのだろうか。
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