第十一章 霊媒師 キーマン

30/41
前へ
/2550ページ
次へ
後ろを向いたままのキーマンさんは、背中を丸めポツリポツリと独り言のように語った。 「懐かしいな……先代は、いつだって、や、優しかったな、いつだって笑わせてくれた、俺が、いつまでたっても、視ることができなくても、ほ、放電すらできなくても、それでもいいと言ってくれたんだよな、」 ああ、やっぱりそうだったのか……キーマンさんの目に霊体は視えないんだ。 キーマンさんは泣き出しそうなのをガマンしてるのか、言葉を途切れ途切れに発している。 「ボスの、役に立ちたくて、先代によくやったって、言ってもらいたくて、他の霊媒師の、足引っ張りたくなくて、なのに俺、結局、今だって霊が視えない、声も聴こえない、気配もわからない。先代が亡くなって、まだ会社に来てるって聞いていたのに、俺に先代は視えない、もう直接、話すこともできない、」 震えるキーマンさんの声が、すごく淋しそうで僕はなにも言えず、ただただ、その背中を見ているしかなかった。 「Ah……ソーリー、俺、こんなこと言うつもりじゃなかったし、cry(泣く)するつもりもなかった。エアーを悪くしたな。oh……ソーリー、みんなソーリー、気にしないでくれ、今のトークはナッシングだ。 ヘイ、ボス。俺と先代の間に入ってくれよ、久しぶりに話がしたい…… アーーーハンッ!?ホワッツ!?なんだ?足元が、足元になにかいる……!?アーオ!コールド!ベリベリコールド!!」 足元が冷たい?足元にナニかいる? なに?どうしたの……って、大福ーーー!? 「ちょっと大福ーっ!なにしてるのダメでしょ!」 いつの間に先代の肩から降りた大福が、キーマンさんの足元でスリンスリンと身体を擦りつけていた。 時折キーマンさんを見上げて、『うなぁん』と鳴いているのは、大福なりに励ましているのだろうか? 「ヘイ!ボーイ!なにがあった?なにがいる?ボーイは今大福って言ってたな?俺には視えないがいるのか?俺の足元にビッグラッキーが!?」 肩幅大に開いたキーマンさんの足元を、今では8の字にクルクルまわり、ぬりんぬりんと身体を擦り続ける大福はなんだか楽しそうに視える。 「こらー!ダメでしょう!お兄さん、足が冷たいって!大福、こっちにおいで!てかなんで大福は生者に干渉できるの?そんなコトできなかったはずでしょぉぉぉ!……って、あれ?あれれ?大福?尻尾どうしたの?」 猫は楽しい時、ご機嫌の時、ぴんと垂直に尻尾を立てる。 大福もキーマンさんの足元でエンドレス8の字を描きながら、ふわふわ尻尾を垂直に立てていた、が、その尻尾の先。 二尾の猫又になりたてほやほやの大福の尻尾は、先が2~3cm程度Yの字に割れている。 それが今、先端から4~5cmまで裂けているのだ。 「大福さん……?尻尾のY字が前より裂けてない?もしかして……猫又としてレベルアップした感じですかね?」 「うなぁん」 大福は僕の問いかけにカワイク答えてくれたが……うなぁんの一言じゃあよくわからない。 けど、たぶんそうだ。 そのせいなのか、霊体を視ることも、霊体の声を聴くことも、ましてや触ることもできないキーマンさんなのに、彼は今、氷のような大福の冷たさを感じ取っている。 キーマンさんがコールド!コールド!と騒ぎ出して少ししてから、先代が自分の手をキーマンさんの背中に重ねるように添えていた。 だが、こちらに関しては無反応でなにも言わなかった。 てことは、大福の霊力(ちから)で冷たさを伝えているのだと思う。 一体いつからそんなことができるようになったの? 大福がユリちゃんに初めて会った時、彼女は大福に触ることができなくてしょんぼりしてたはずなのに……
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加