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「先代……聞いてもいいですか?」
僕はキーマンさんの足にまとわりつく大福に目が離せないまま、先代に声を掛けた。
「大福の尻尾……先端が前より裂けてますよね?これって先代が言ってた、”猫又としてレベルアップ”した印なんでしょうか?だから大福はキーマンさんに触ることができるようになったんでしょうか?」
すると先代はキーマンさんの足元にしゃがみこんで大福の様子をしばらく眺め、顔をあげるとこう教えてくれた。
「大福ちゃんの尻尾、確かに前より二股に裂けてるねぇ。猫又としてレベルが上がったとみて間違いなさそうですよ。だけどねぇ、大福ちゃんはまだ生者に触ることはできないみたい」
「そうなんですか?だけどキーマンさんは大福が触れたところが冷たいって言ってますよ?僕も大福に触ると氷のように冷たいし、それって大福が接触による干渉をしてるってことじゃないんですか?」
「んーん、似てるけどちょっと違いますねぇ。近くで見ると大福ちゃんの霊体全体から冷たい霊気が出てるから……たぶんこの霊気に触れて、鍵君は冷たいって言ってるんじゃないかなぁ。弥生ちゃんと同じ手法だよ」
「弥生さん?」
「そう。先週、弥生ちゃんが言ってたでしょう?『悪霊をふんじばる』とか『悪霊をブッ飛ばす』とか。弥生ちゃんはねぇ、岡村君みたいに霊体に触れる程の霊力はないの。だからふんじばる時は電気で造った鎖で縛り、ブッ飛ばす時は電気の塊を思いっきりぶつけてるの。どっちも霊体に直接触れてはいない、けど、弥生ちゃんが発した電気は霊体に干渉することができる……たぶん大福ちゃんもコレだと思うよ」
あ、思い出した。
弥生さん、悪霊が怒りだしたら、ふんじばったりブッ飛ばしたりして黙らせる的なこと散々言ってたっけ。
それを聞いた時、弥生さんは霊に干渉できないはずなのに……とは思ったけど、深くは突っ込まなかったんだよな(それどころじゃなかったし)。
じゃあ、大福も弥生さんと同じ方法でキーマンさんに干渉しているってことか。
大福……天才だな。
「ヘイヘイヘイ!チェリーパイ!もしかして先代と話してるのか?先代の声が聞こえないから俺にはさっぱりわからない!それからビックラッキーが離れてくれない!さっきまで足が冷たかっただけだったのが、アーオ!!なんか!ドスンドスンって氷の塊に押されてるみたいに!アウチ!ホワッツ!ウェイト!ウェイ!アウチィィィ!」
大福の姿が視えないキーマンさんはひどく困惑していた。
一方、大福もキーマンさんも両方の姿が視える僕達は、その様子を呆気にとられて眺めていた。
なにが目的なのか僕のカワイイ大福は、大きな霊体で(見た目体重6kg)垂直に高く飛び、キーマンさんの背中を豪快に蹴っている。
その重量級の飛び蹴りに、たまらず前につんのめるキーマンさん。
かろうじてバランスを取るも、大福の連続飛び蹴りに強制的に前に押し出されてしまう。
延々と続く飛び蹴りにとうとう壁に追い詰められたキーマンさんは、姿の視えない幽霊猫から逃れるように、休憩用に仕切られたパーテーションの向こう側に消えた。
丸いテーブルと椅子が2脚あるだけの小さなスペースから「アウチアウチ」と声だけが聞こえてくる。
大福……どうしちゃったの?
キーマンさんにじゃれてるのかとも思ったが、それにしては激しすぎる。
普段はとても穏やかな幽霊猫で、あんな荒ぶる大福は視たことがない。
「先代、社長、ちょっと僕、様子を見てきます。なんで大福があんなことするのかわからないけど、キーマンさんになにかあったらいけないし、」
大福がキーマンさんに危害を加えるとは思えない。
だけど大福の姿が視えないキーマンさんにしたら、どこから飛んでくるかわからない蹴りは多少なりとも怖いんじゃないだろうか?
心配を胸に数歩前に進んだその時だった。
パーテーションの向こうから聞き覚えのない声が聴こえてきた。
『人の子よ____』
え……?
今の……誰?
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