第十一章 霊媒師 キーマン

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◆ 「な、なんだ?今のは……ヴォイスだ……とても近くでウィスパーヴォイス(囁き声)がした……けどこの狭いスペースに俺以外に人はいない……アーオ!!ホワーッツ!?YOUは誰だ?姿を見せてくれ!」 パーテーションの向こうで、キーマンさんは盛大に慌てふためいていた。 『人の子よ____』 まただ、またさっきの声だ。 落ち着いたトーンの女性の声は、さほど若くはなさそうだけど、かといって年老いた感じでもない。 少し高めで優しげで、それでいて凛とした綺麗な声だった。 「だからっ!どこにいるんだ?もしかしてYOUは幽霊なのか?だから俺には視えないのか?結界があるこのビルディングにどうやって入った!?um(うーん)!声は聴こえるってのに、こんなこと初めてだ!チキンスキン(鳥肌)チキンスキン(鳥肌)!ワァァアアオ!!」 え……?や、ちょっとキーマンさん、そんなに?そこまで? 『人の子よ____私の話を聞きなさい』 「AHHHHHHH!!!また声が聞こえた!ジーザス!!ジーーザスクライスト!!!」 『……人の子よ、』 「ウェイウェイウェイ!ウエーーーイト!!怖っ!声だけ聴こえるの怖ーっ!!」 激しく狼狽するキーマンさんが心配で、ダイジョブですか?と聞こうとした僕だったが、苛立った叱り声に先を越されてしまった。 『えぇい!黙れ人の子!落ち着け、たわけが!』 「……!?」 あ、キーマンさん黙った。 『ふぅ、やっと静かになった、』 「ソ、ソーリー。俺……マイルドにパニックだったな」 『人の子よ、マイルドどころの騒ぎじゃなかったわ』 「そ、そうか、ソーリー。ハウエバー(だけど)……姿を見せないYOUもbad(悪い)だぜ?だからうっかりパニックに……いや、違うか。あんたの正体はわからないが、本当は近くにいるんだろう?あんたは悪くない、悪いのは、視ることが出来ない(・・・・・・・・・)俺だ」 『極論だな。視えないから悪い、ということではないだろう。違うか?人の子よ____いや、キーマン』 「な……!なぜ俺のネームを知っている!?」 『そりゃあ、ずっと同じ部屋にいたから話聞いてたもの』 「同じ部屋にいた?おまえ……(ピコーン!)いや、あなた、もしかして……先代ですか!?生前(まえ)より声が高くなって口調もキャラも変わった気がするけど……!先代、あなたなんですね!?」 や……キーマンさん、違いますって。 先代、僕の隣にいるし。 『違う、私は平蔵ではない。落ち着いてよく考えろ。自分で、"声が高くなって口調もキャラも変わった気がするけど"って言ってただろう?そこまで違うなら、すなわち別人だ』 「アウチ!ヘイヘイヘイ!あんたは先代じゃあないのか。そうだよな、キャラ変わりすぎだよな。じゃあ一体あんたは誰なんだ?先代を”平蔵”と呼び捨てか?先代が亡くなったのは78才。あんたの声……そこまでの年じゃないだろう?年上には敬意を払うものだぜ?」 『年上には敬意を払うもの?……笑止!なら聞くがキーマン、おまえ私がいくつだと思ってる?途中20年目で死んだものの、この世に生を受け56年だ。人の子年齢で言えば56才。だが我ら種族の数えで言えば237才になるのだ。78才なんて青年に等しい。それに私と平蔵の仲だ、呼び捨てにして何が悪い』 237才!? 超シルバーじゃないですか! ん……だけど、この世に生を受けてからは56年なんだよね? 計算ヘンじゃない? 「ハッハー!YOU!話盛りすぎ!56才なのに237才って!チッチッチッ!どんな計算したらそんなアンサーになるんだ!」 姿なき声だけの存在にだいぶ慣れてきたのか、調子を取り戻しつつあるキーマンさんがツッコみを入れた。 『キーマン、人の子の常識がすべてだと思うなかれ。我らは生まれて最初の1年で、人の子年齢に換算すると一気に17才まで成長するのだ。その後は1年で4才ずつ年を取る。人の子とは年の取り方が違うのだよ。だから生まれて56年=237才になるんだ。わかるか?暗算できるか?』 最初の1年で人間の年齢で言うところの17才になり……その後は1年で4才ずつ年を取る。 人間よりも早い成長、この年の取り方は……間違いない、猫だ。 今、キーマンさんと話をしているあの声は、パーテーションの向こうに姿を隠したあの声の主は、もしかして……大福なのか?
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