第十一章 霊媒師 キーマン

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大福は人語がわかる。 だが話せないはずだ。 猫の身体の構造上、人語の発声は無理なものだと思っていた。 普段、大福との意志疎通は僕が人語で話しかけ、大福はそれに対して「うなぁん」と答えてくれる。 そして、ここでは大人しくしてねとか、お願い事をした時には尻尾をフリフリして、理解したことを伝えてくれるのだ。 今の今まで、人語で答えてくれたことは1度もない。 だけど……ついさっき、大福は猫又としてレベルアップをした。 尻尾が前よりも裂けているのがなによりの証拠。 レベルアップして”人語を話す”というスキルが新たに身についたのだろうか? てか、いつもカワイク「うなぁん」と鳴く大福だけど、今の話し方はまるでニャン生を達観したような、酸いも甘いも噛み分けた手練れのような雰囲気だ。 これ本当に僕の大福なの……? 『キーマン、おまえはなにを嘆く、』 厳しくも淡々とした大福の問いかけに、キーマンさんは言葉を選んでいるのかしばらく黙っていた、が。 「俺は…………別に嘆いてなんかないさ。ボスと一緒に働けて、雑貨屋だってやれている。エブリディハッピーだよ」 『そうか?ならなぜ泣いていた』 「アレは……!アレはただ先代がココにいるって聞いたのに俺は話す事も視ることもできない、それがアリトル(少し)淋しくなっただけだ。ただのセンチメンタルでたいしたことじゃない、」 『ふむ。私はてっきり、誠はともかく新人の英海、ましてや事務のユリまでもが霊能力を持ち、平蔵の姿を視て言葉をかわすところを目の当たりにしたことで、劣等感や疎外感を感じたのではと思っていたのだがな。自分も霊媒師と名乗っているのに、視ることも聴くことも叶わないことに嫌気がさしたんじゃないのか?』 大福……辛口すぎる…… もう少し言い方ってものがあるのでは…… 「!……俺は、俺は、そんなんじゃ……」 『違うのか?本当に違うのか?羨ましいと思ったんだろう?どうして自分には霊力(ちから)ないのかと嘆いたんだろう?』 「…………」 『だんまりか』 「……あんた、誰だ?名乗りもしないで正体も明かさず言いたいことを言ってくれるな、」 『笑止。声が震えているぞ?図星で動揺してるのか?弱いな、若き人の子よ。それで?私の名前が知りたいと。なにを今更……キーマンは知っているだろう?さっき英海から聞いたはずだ、私の名は大福。まぁ、おまえは私をビッグラッキーと呼んでいたが』 「あんた……チェリーパイの幽霊猫だったのか。飼い主と違ってずいぶんと傲慢だな。だがなぜ俺はあんだのヴォイスが聴こえる?自慢じゃないが俺の霊的センスはほぼほぼゼロだ。俺に幽霊の姿は視えないしヴォイスも聴こえない。なのに、」 『舐めるなよ、小僧。おまえのスキルの無さなんぞ、私の妖力で余るほど補ってやるわ』 「だけど姿は視えないぜ?あんたの妖力がどれほどのモンかI don't know(知らない)だが、ヴォイスを聴かせるのが精一杯なんじゃないのか?”舐めるな”などとビッグマウス叩いといてその程度か……アブサード(笑止)!」 『ふん、減らず口を叩いて私に勝ったつもりか?私の姿は、今はあえて(・・・・・)視せないだけだ』 ピリピリとした空気が漂うパーティションの向こう側、僕の知らない大福とキーマンさんの声だけが聞こえてくる。 オロオロする僕とユリちゃんに「もう少し見守りましょう」と先代が優しく頷いた。 そして社長は「盛り上がってきたな!」と、なにがそんなに楽しいのかてくらい……浮かれまくっていた。
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