第十一章 霊媒師 キーマン

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「俺は探し物専門だから幽霊は視えない。だからって変に気を遣われるより、毒舌で笑い飛ばしてくれた方が気が楽だ。なのに……フフ、先代は毎回怒るんだよ。『鍵君の探知能力は世界一なんだよ!誰も鍵くんに敵わないからって意地悪言わないのー!』ってさ。誰も意地悪で言ってるんじゃないのにプンプン怒って俺を庇うんだ。ボスなんか先代をからかう為にわざと『幽霊の視えないキーマン。ウチの会社で最弱の霊媒師だな!』って言うんだよ」 ああ、そうか。 社長が言った「エイミーよりも弱い霊媒師」っていうのは、その頃のノリの延長でのことだったんだな。 だってキーマンさんはちっとも弱くないもの。 「俺は毎日が楽しくて幸せだった。探し物の現場ではいつだって見つけることができたし、金を貰って仕事をしているだけなのに感謝までしてもらえる。会社に帰れば先代がこれでもかってくらい褒めてくれた。俺はこの会社に入って本当に良かったと思ったよ。ずっとこんな楽しい日々が続くものだと思ってた。なのに____今年の2月、先代が亡くなった」 『肺炎だったと聞いた、享年78才。人の子にしては長生きだ』 「……急だったんだ。先代が亡くなった日、俺は現場にいた。沖縄で黄金に光る激レアシーサーを探してたんだ。3日程でシーサーを見つけだし、報告書と交通費清算の為に出社して初めて先代が亡くなったことを知らされた。俺は当然、なぜ連絡をくれなかったんだって怒ったさ。だけど……それは先代の希望だったんだ。俺の仕事のジャマになるから鍵君には連絡するなって。俺は泣いた、声をあげて泣いた、」 『…………』 「ふっ、今度はあんたがだんまりか。まあいい聞きな。狂ったように泣く俺にボスが言ったんだ。『泣かなくていい。ジジィは死んだ、だがここにいる』って。聞けば仕事がし足りない先代は成仏しないで会社に残ることにしたんだと、新しい社長がふざけすぎてるから監視役になるんだと、身体はないけど幽体となって変わらずここにいるんだと。俺はそれを聞いてホッとした、先代はまだ傍にいてくれるんだってな。だが……俺には霊能力がない。どんなに先代の姿が視たくても、どんなに話したくても、それが叶わない」 『おまえは淋しくなったのだな。霊能力(ちから)のある霊媒師達が、平蔵を難なく目で捉え言葉を交わし笑い合っているのが羨ましくてたまらなかったのだろう?もう一度会いたい、もう一度褒めてもらいたい、と』 「……そうだ、俺に霊能力(ちから)があればって何度も思った。そりゃあ、ボスや弥生姐さんに頼めば、間に入ってもらって話をすることはできる。だけど、昔みたいに好きな時に好きなだけ話すことはできないからな。はぁ……あんたの言う通りだ。俺、弱いな、小さいな。そうだよ、みんなが羨ましくて仕方なかったんだ、」 『おまえの気持ちはわからないではない。が、視野は狭いな。もっとも____この世に生を受け、たった29年の若き人の子では仕方あるまい。いいか?よく聞けキーマン。無いものに焦点を合わせすぎるな。在るものを大事にしろ。無いものばかりにこだわると、今の幸せを見失う』 「今の幸せ……?」
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