第五章 霊媒師OJT-1

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「それにな、依頼主の気持ちも考えなくちゃならん。いくらウチの会社の料金設定が他社より安いからって、それでもそれなりの料金はかかる。霊障に悩む依頼主が安くない金を払ってでもなんとかしてほしいとウチに依頼をかけるのは相当切羽詰った時だ。今回のアパートオーナーもネットで拡散された事故情報に苦労してきたんだと思うよ? 現実的な事言えば収入も減るだろうし、興味本位でアパート周辺をうろつくヤツもいるだろうし、そのせいで近所から苦情が入る事もあるだろうし、さ」 「そうか……そうですよね」 「そう言う事。だから俺ら霊媒師は腹ん中で何を思おうが構わないが、現場ではフラットにならないといかんのよ、霊にも依頼主にもな」 「少しだけわかった気がします」 「少しでもわかってくれりゃOKだ、って、ガッテム! なんだよコレ!!」 と、社長が怒鳴ったのは僕に対してではない。 平日のお昼前という時間帯は道路も空いていて、順調にH市に向かい走っていたのだが、目の前には車、車、車……どの車もハザードランプを点滅させたままで長蛇の列になっている。 「ちっ! 渋滞かよ!」 僕は素早くこの近辺の情報を検索すると、この先で事故があったらしい事がわかった。 「社長、これ事故渋滞ですよ。……あ! もしかして、これって田所さんの霊が僕らが現場に行けないように妨害してるんじゃないですか!?」 「いや、これは違うと思う。本来行くはずだった霊媒師には引き続き現場に向かうように言ってある。その方が田所さんの妨害がそっちに向いたままになるからな。それに、この車にはジジィがいるだろ? 田所さんの念がこっちに向かっていればすぐにわかるはずだ。なっ? ジジィ!」 「…うぅ? あぁ?」 後方からなんとも間抜けな声がした。 僕が後ろを振り返ると先代は後部座席でヨダレを垂らさんばかりに居眠りをしている……って、へえ、幽霊って眠るんだ。 「あ! ジジィ寝てやがったな! まったく呑気なジジィだ! まぁ、寝てられるってのはやっぱり田所さんの妨害は入ってない証拠だから、本当にただの事故渋滞だろ。だけどマジどうしよっかな……」
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