第一章 霊媒師募集

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「やめてください!」 僕は思わず声を荒げ、老職員の手をピシャリと叩いてしまった。 お年寄りで冷え症なのか、氷のような手の冷たさにゾクッと背筋か寒くなる。 だがそのことで冷静さを取り戻した僕は、ひどく情けない気持ちになった。 この老職員、少々話を聞かない所はあるが僕の為に一生懸命、面接を勧めてくれたのだ。 それをイライラして引き留める彼の手を叩くなんて、気持ちに余裕が無い証拠だ。 本当に申し訳ない事をした、ここは素直に謝らなくてはいけない。 僕はおずおずと老職員に目線を戻した。 「あの、すみませんでした! あなたを叩くなんて、僕、本当にひどいことを……」   そこまで言って僕は絶句した。 老職員の僕を見る表情(かお)が、すこぶる嬉しそうでキラッキラの笑顔だったからだ。 「私……驚きました! 私を叩きましたね……!? あなた! 私のこの手をピシャリと叩きましたね……!!」 相変わらず激笑顔な老職員は『私を叩いた!』と大騒ぎ。 怒ってるのか喜んでるのか判断が難しい。 「おっしゃる通り、叩いてしまいました。本当に申し訳ありません……」 「いいえ謝ることはありません! あなた自身が気が付いていないだけでスゴイ才能! スゴイ逸材だ! あなた、明日の10時に必ず会社に来てください! さっそく入社手続きをしましょう! もちろん霊媒師として! それではまたね明日ね! 待ってますよ! 絶対来てくださいねーーッ!」 老職員は大興奮で、叫ぶように明日の面接時間を告げると、一瞬にして消えてしまい、僕は短い悲鳴を上げた。 「え!? なんで!? 職員さんが消えた……! どういうこと!? ねえ、見ました!? さっきまでカウンター越しに僕と話をしていた職員さんがパッと消えたの、みなさんも見たでしょう!?」 僕はまわりに向かって大声で問いかけた。 が、返事をしてくれる人は誰もいなかった。 それどころか変な人を見る目で遠巻きにされている。 なんで……? いたたまれない気持ちで立ち尽くしていると、一人の勇気ある女性が声をかけてくれた。 「あの……もしかして体調が悪いのですか? 熱があるとか……仕事が決まらないで気が滅入ってるとか……だって、その、あなた、誰もいないカウンターでずっと一人で喋っていましたよ? 今日はこのままお帰りになった方がいいのでは……」 僕が1人で喋ってた? なに言ってるの? みんな見てなかったの? 僕はカウンターで、ハローワーク(ここ)の老職員さんと2人で話してたんだ。 いくら僕が主張しても、憐れむようなまわりの目とヒソヒソ声がそれを否定した。 訳がわからない…… 僕はその場から逃げるようにハローワークを後にした。
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