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社長のイライラが直に伝わってくる。
ノロノロと少し進んでは止まる、また少し進んではの繰り返し。
そのたび社長は忙しそうにギアチェンジをしていた。
渋滞でのマニュアル車は大変だなぁ、なんてぼんやりとその手元を見ていると、
「これじゃあ、いつまでたっても現場につかないな……クソッ!」
さらにイライラ度が増す社長。
なんとなく気まずくて俯く僕。
重い空気の中20分かけて3m程前進したその時、
社長のイライラが徐々に引いていくのがわかった。
あれ?
どうして?
道は相変わらず渋滞なのに?
不思議に思った僕は顔を上げて運転席を見る、視線がぶつかった。
ハンパない目力で僕を見つめつつゴツゴツと大きな手でクシャリと髪を撫でてくる社長。
え?
なに?
どうしたの?
と思った次の瞬間、
「なぁ、エイミー。俺に抱かれる気はあるか?」
へ……?
ダカレルキ……?
抱かれる……木?
いや、抱かれる……気…??
なんですとーーーーーーーーーーっ!!
だだだだだ抱かれるって一体どういう意味ですかーーーーーーっ!!
この時僕は世界で一番間抜けな顔で口をパクパクさせていたんだと思うけど、衝撃すぎて声が、言葉が出てこない!
社長はそんな僕を熱を帯びた瞳でロックオン。
そしてこの一週間見た事のない情熱的な表情で、
「かわいいな、エイミー……じゃ、行くぞ!」
行くって何処へーーーーーーーーっ???
現場に行くんでしょーーーーーーっ???
なぜここでウィンカーーーーーッ???
僕はウィンカーの出された左方向に目線を移す。
するとそこには、そこには、そこにはーーーーーーっ!?
国道沿い、中古車販売店とかファミレスといった健全なお店が並ぶ中、一際目立ついかがわしい雰囲気の建物が。
これはいわゆる愛の宿泊施設!
____HOTEL TRUE☆LOVE
平日12時間フリータイム____
ちょっと待ってください! 社長! 僕は、僕は___!
社長の左足がクラッチを踏みギアが入る。
右足がゆっくりとアクセルを踏み、同時にハンドルが左にきられ、社長のソウルカーであるランサーエボリューションⅤは滑らかにラブホの中に吸い込まれていった。
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