第十二章 霊媒師 水渦ー1

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「結構です。清水さんが社長に向いていないのは事実ですが、私はただの平社員で役職もありません。人事に異議を唱える立場にありませんから」 「そっか。じゃあ朝からそんなにピリピリすんな。俺は慣れてるからいいけどエイミーはびっくりしてるぜ? あ、そうそう、コイツが期待の新人エイミーだ。まあ、ミューズのことだからとっくに知ってるだろうけどよ。相変わらず霊視で覗き放題か?あんましプライベートな事まで覗くなよ?」 えぇ……ミューズさんって霊視(のぞき)趣味があるの……? 僕のことも覗いてたの……? 「別にそこまで視てません。どんな人が入ったのか名前と経歴だけです。顔だって知りませんでしたし」 名前と経歴って……充分霊視してるじゃないですか……怖いよ…… 「つか、おまえらコンビニで会ったのか?エイミーが言いかけてた“コンビニの変な女”ってミューズのことだろ?」 ちょっと! そこ本人の目の前で蒸し返さないでください! やだ!すっごい睨んでる!めっちゃ睨んでる! なんか言わなくちゃ! 「は、はい、そうです。だけど変な女性とは言いましたが、本当に変という訳では……」 と、焦れば焦るほど歯切れが悪くなる。 「なんだよ、エイミー。やっぱり変な女だと思ったんだな?」 ニヤついた社長にツッコまれて、否定しきれずしどろもどろになっていると、 「変な女、嫌な女、醜い女。そう思っているのでしょう?言わなくてもわかります。それがなにか?誰にどう思われてもかまいません。私はここに仕事に来てるんです。仲良しごっこをするつもりはありませんから。それから社長、もう一度言います。私をミューズと呼ばないでください。ミューズとはギリシャ神話の女神達の総称です。私のような醜女(しこめ)に嫌味ですか?」 水渦(みうず)さんは淡々と言い捨てると、僕らを置いてさっさと社屋に入っていった。 (わり)いな、と肩をすくめる社長は、 「それで?コンビニでなにがあった」 と僕に問う。 「はぁ……」 水渦(みうず)さんが同じ会社の霊媒師とわかった以上、告げ口するみたいでためらいが生じる。 「エイミー、気にせず話せ。大体の予想はつくよ。ミューズがなんかやらかしたんだろ?」 一瞬だけど社長の目に困ったような淋しそうな、そんな色が見えた気がして、やっぱり話しておこうと僕の気持ちは固まった。 「実は……」 朝のコンビニでの出来事。 なるべく個人的感情が混ざらないよう気を付けながら、僕は視たものすべてを社長に話したのだった。
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