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「らめぇぇっ!! Uターンしてぇぇっ!」
ラブホ敷地内に進入した助手席で、僕は乙女のような悲鳴をあげた。
社長の事は嫌いじゃない、でも、でも、恋愛感情じゃないんですぅ!
後部座席の先代も寝てないで僕を助けてぇ!
「ぶはっ! 悪いなエイミー、俺、Uターンはしないから」
ハンドルを握る社長は狼狽える僕を横目にゲラゲラとアクセルを踏み込んで、そのまま敷地内を突っ切って反対側の出入り口から右折でラブホをあとにした。
そして車二台すれ違うのがやっとのギリギリ細い道を、社長の鼻歌をBGMにスイスイと進んでいく。
僕は前方と後方を交互に見ながら間抜けな声を出した。
「えっと……社長? 僕をどうこうするってドセクハラな話は……?」
「あれは冗談だ。もしかしてガッカリしたか? あぁ? そんな事ない? あ、そう。いやさー、国道が渋滞であんまりにも動かないから、さっきのラブホ通らせてもらって一本こっち側の裏道に出たんだ。道は狭いけど国道と並走してるから方向的には一緒だしな。ははっ! エイミー、マジでびびってただろ!」
テッテレー! 大成功ー!
なんてはしゃぐ社長に僕は脱力し長ーーーい溜息をついた。
「なんだ、エイミー。溜息つくと幸せが逃げるぞ? でもまあ、今これだけびっくりしとけば現場着いても多少の事じゃ驚かないよ。良かったな! 俺のおかげだ!」
はぁ……社長の悪ふざけに毎回騙される僕だけど、さっきの騒ぎで初現場に対する緊張のうち半分はどこかに消えてしまった。
そこは多少感謝するべきかもしれない。
だけど……。
____俺に抱かれる気はあるか?
まったく、社長はふざけ過ぎだ。
なんで普通にラブホの中を通り抜けするからって言えないんだよっ。
ある意味ドキドキしたわっ!
あーなんかこれって、初現場と社長に振り回されるのと、下手すりゃ社長の方が大変なんじゃないだろうか?
こうなりゃ初現場でも幽霊でもドンと来いだ。
そのとき僕は、結局は笑ってしまう社長の悪ふざけにごまかされ、変なテンションになっていたのかもしれない。
後にそれがどんなに浅はかなだったかを思い知らされる事になるのだが、それは現場に着いてからの話なのだ……。
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