第十二章 霊媒師 水渦ー1

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◆ エレベーターを待つ時間すら惜しい僕は、迷わず階段を駆け上がった。 普段なら息切れで途中で挫けそうなものだけど、アドレナリンが出まくっているのかまったく疲労を感じない。 僕は足を止めることなく3階まで一気に駆け上がった。 「この化け猫っ!!やめろッ!!冷たいッ!!重いッ!!どけぇッ!!」 昇り切った3階廊下には、劣勢を感じさせる水渦(みうず)さんの怒鳴り声と、物が投げつけられるような大きな音が鳴り響いている。 まずい、まずいぞ! 生きている普通の猫だって、本気を出したら人間を傷だらけにできるのに、大福は先代お墨付きの猫又だ。 その能力はまだ未知数だけど、猫の身体能力はそのままに妖力まで備えているとなったら……とてもじゃないけど生身の人間が敵うとは思えない。 確かに水渦(みうず)さんは僕を本気で()りにきた。 それが大福にとっては許せないことなのだろうけど、だからって水渦(みうず)さんを傷つけていい理由にはならない。 大福は僕を水渦(みうず)さんの矢から守ってくれた。 それだけでもう充分だよ。 大福は優しい仔だもの。 命を奪う事まではしないだろうけど、怒りに任せて人を傷付ければ、大福は後から必ず後悔する。 きっと自分自身を責めて僕との関係もぎこちなくなってしまうかもしれない。 そんなの……そんなの絶対にいやだ! きっと大福は、今この瞬間も水渦(みうず)さんを襲いながら、心が傷付いているはずだ。 かわいそうに……僕なんかの為に辛い思いすることないよ。 大福、今行くから待って! お願いだから早まらないで! 壁面に並ぶ3枚のドア、そのうち真ん中を力任せに開け放し、僕は部屋に飛び込んだ。 「大福!!」 愛しい幽霊猫の名前を叫び部屋を見渡す。 女子社員のロッカー兼休憩室として使われているこの部屋の中はグチャグチャだった。 低めのテーブルはひっくり返り、仮眠もできそうな長ソファーは斜めに乱れ、破けたクッション、壁から落ちた掛け時計、散らばったお菓子類に、お徳用5リットルのペットボトルにおさまった日本酒・鬼殺し(弥生さんの私物と思われる)が数本倒れていた。
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