第十二章 霊媒師 水渦ー1

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とっちらかった部屋の中、絨毯の上に組み敷かれているのは、動揺を隠しきれない水渦(みうず)さんだった。 「ど、どけッ!! クソ化け猫!! 重いんだよッ!!」 小太り体型の水渦(みうず)さんの上に四足(よつあし)で仁王立ちする大福は、ためらいもあろう人間への攻撃に深く傷付いた顔を……顔を……していなかった。 『にゃおーーーーーーーん!!』 いろいろ心配でたまらなかった大福は、誇らしげな雄叫びを上げて、いつものカワイイ顔は何処へやら、ゲスな得意顔で水渦(みうず)さんの腹を踏み押さえている。 そして身動きのとれない水渦(みうず)さんが「どけッ!! 化け猫ッ!!」と怒鳴るたびに彼女の顔に容赦のない肉球パンチをお見舞いしていた。 え……? 大福さん……? なんか楽しそうだし生き生きしてませんかね……? 人間を襲うためらい感はゼロですよ、コレ。 「岡村ッ! オマエの猫だろ! さっさとどかせ!」 顔だけ僕に向けた水渦(みうず)さんが、唾を飛ばす勢いで怒声を上げた。 絨毯の上にY字に倒れる水渦(みうず)さんは、腹の上に大福が乗っているとはいえ、猫一匹に動けないことはないだろうと不思議に思いよく見れば、両手首と両五指すべてに白く光る電流が絡みつき床に固定されていた。 という事はもしかして足も……やっぱりそうだ、両足首も同様に白色の電流縄でガッチリ固定中。 大福……いつの間に放電できるようになったんだよ。 だけど納得、なるほどね、だから動けないのか。 これなら水渦(みうず)さんが矢を撃つ事はできなそうだ。 「だから岡村ッ! 早くこの化け猫どかせ! それから縄を解け!! 早くしないと矢でオマエを撃つぞ!!」 噛みつかんばかりに命令をする水渦(みうず)さんだけど、 「どうやって?」 と冷静に質問すると、指一本動かすことが出来ない今の自分を思い出したのか、顔を真っ赤にしながら「シネ! シネ!」と悪態をつき始めた。 “シネ! シネ!”って、はぁ……アナタは小学生ですか? 僕は呆れて溜息をついた。 この人はある意味ものすごい子供なのかもしれない。 「あぁぁぁぁぁぁ!! ウゼェェェェェ!! 岡村ぁぁぁぁ!! 早く何とかし、痛ッ!! 痛い痛い痛い!! ヤメロッ! なにする!! クソ化け猫がぁぁぁイタタタタタ!!」 僕に攻撃的な水渦(みうず)さんに腹を立てたのか、それともただ単にそうしたかっただけなのか、腹の上から頭上へと移動した大福が、自身の鋭い爪でもって水渦(みうず)さんに鼻フックをかけた(グィっと思いっきり……!)。 見てられない……あれは相当痛いはずだ。
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