第十二章 霊媒師 水渦ー1

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◆ 事務室に移動した僕達は、ミーティング用の大きなテーブルに集まった。 社長と水渦(みうず)さんには先に着席してもらい、僕は給湯室でお茶とお菓子の用意をする。 ちなみにお菓子は朝コンビニで買った、人間用おやつのミニドーナツだ。 今日淹れるお茶は僕の私物であるハーブティー各種の中から、“癒しの女王”と呼ばれるラベンダーティーをチョイスした。 ラベンダーにはイライラを鎮め、気持ちを落ち着かせる効果がある。 今の僕達にはピッタリではないだろうか? 「どうぞ、」 社長と水渦(みうず)さんの席のそれぞれにハーブティーと、3人の真ん中あたりにミニドーナツをドサッと置いた。 10人は座れる大きな机に3人しかいない僕達は、近すぎず離れすぎず、席を1つ空けて飛び石の間隔でもって着席した。 「(わり)いな、エイミー。おまえが淹れてくれる茶は旨いだよな。なんだっけ?草花すり潰したこの茶の名前はよ、」 草花すり潰した、って、まぁ、間違いじゃあないけどさ。 普段缶コーヒーばっかりの社長だが、意外にも気に入ってくれたみたいだ。 「ハーブティーですよ。ノンカフェインだし身体に良いし、その日の気分や体調で飲み分けるんです。今日のはラベンダーなんですが、気持ちが落ち着くいい香りですよ」 無言でティーカップを見詰める水渦(みうず)さんは、ジッとしたまま固まっている。 もしかして……ハーブティー苦手だったかな? 「水渦(みうず)さん、ごめんなさい。もしかして、ハーブティー嫌いでしたか?もしそうなら淹れ直してきます。コーヒーも紅茶も緑茶もなんでもありますから」 せっかく話し合いの場を設けたのだから少しでも穏やかに話したい。 ハーブティーが苦手というなら、いくらでも他のもの用意しますよ? 「いえ……苦手というか……私、ハーブティーなんて飲んだ事も実物を見た事もなかったので、戸惑っていました」 「そうだったんですね。それならぜひ飲んでみてください。まずは香りを楽しんで、それから一口。ハーブティーは人によって好き嫌いが分かれます。もし苦手だなと思ったなら遠慮しないで言ってくださいね」 「だけど、残したらもったいないです」 「大丈夫ですよ。その時は社長が飲みます。ね?社長?」 「もちろんだ!」と親指を立てる社長は、すでに一杯目を飲み干して、僕におかわりを要求していた。 「そうですか、では一口。…………あ……おいしい」 よっしゃ! 飲む寸前まで眉間にシワを寄せていたのに、今の水渦(みうず)さんの表情が少しだけやわらかい。 「なんだよミューズ、お茶(それ)くれねーのかよ、」 二杯目をグイグイ飲みながら、水渦(みうず)さんのも狙っていた社長が口を尖らせた。 それに対して、チビチビとラベンダーティーをすする水渦(みうず)さんは、 「あげませんよ」 と真っ向拒否。 水渦(みうず)さんは、大事なもので持つかのように両手でティーカップを包み、一口飲んでは香りを楽しんでいる。 雰囲気は悪くない。 さっそくラベンダー効果が出てくれたみたいだ。 これで落ち着いて話ができる。
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