第十二章 霊媒師 水渦ー1

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◆ 「岡村さんは、いつもこういったものを飲まれているんですか?」 遠慮がちに二杯目のラベンダーティーをすする水渦(みうず)さんがポツリと聞いた。 「いや、なんでも飲みますよ。コーヒーでも紅茶でも、それぞれ好きですし。ただ、ハーブティーは実家の母が好きで、小さい頃からよく飲んでいたんです。だから1日一杯は必ず飲みますねぇ。身体にもいいですから」 なんともなしに答えた僕に、水渦(みうず)さんは小さく溜息をついた。 えぇ!? 僕なんか変なこと言った? 水渦(みうず)さんの地雷がどこに埋まっているかわからない僕は、とりあえず彼女の返答を待った。 「岡村さんは良いところのお坊ちゃんという感じがします。穏やかで優しそうで、それでいて正義感も強い。私の蛮行に目を瞑る事なく、真っ向から疑問をぶつけてきましたよね。『どうしてあんな事をしたのだ』と」 先程まで口汚く怒鳴り散らしていた人とは思えないくらいの落ち着いた口調は、少し淋しげで目線はティーカップにそそがれている。 「すみません、さっきは新人のくせに生意気なことを言いました。だけど許せなかったことは否定しません。どうして非の無い店長さんを滅したのか、それはまだ僕の中で疑問のままです。それから、僕はいいところのお坊ちゃんではありませんよ?実家はどこにでもある普通のサラリーマン家庭だし、お金持ちでもありません。家族はみんなお酒を飲まないので、かわりにお茶に走るんです」 「そうですか、どこにでもある普通のサラリーマン家庭……ね」 言ったきり黙り込んだ水渦(みうず)さんに、どうしていいかわからずにいると、ミニドーナツをモグモグさせた社長が、沈黙を埋めるかのようにこう言った。 「ミューズはさ、親いねぇんだよ。つか、親が誰かもわからねぇ。赤ん坊の頃、新聞紙に包まれて公園に捨てられてたのを警察が保護したんだ。で、その後は施設暮らしだ。 それと、オマエら、(モグモグ)早く食わねぇと(モグモグ)ドーナツ(これ)なくなるぞ?」 ちょ……社長……そんなヘビーな話、ドーナツモグモグさせながら言わないでくださいよ。 それに、水渦(みうず)さんに許可も取らず、勝手に話しちゃっていいの? 怒ってるんじゃないのかな……?
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