第十二章 霊媒師 水渦ー1

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◆ 「その年は冷夏だったそうです。弱い雨が降る公園にグチャグチャに濡れた新聞紙の塊が落ちていて、中に生後間もない赤ん坊の私がいました。あの頃は今みたいにそこらじゅうに監視カメラが付いている訳じゃなく、警察の捜査でも誰が私を捨てたのか分らずじまいでした。きっとロクな人間ではないでしょうね、私が死んでもかまわないと思って放置したのでしょうから」 捨てられていたのが冬だったなら、また夏でもその年が猛暑だったら、たぶん水渦(みうず)さんは命を落としていたのだろう。 ご両親にどんな事情があったかは知らないが、ひどすぎる。 「行き場のない孤児は施設行きと相場がきまっています。例に漏れず私も施設生活が始まりました。そこは地獄でしたよ。食事もろくに与えられず、孤児同士の苛めや職員からの虐待は当たり前。施設ってみんなああなんでしょうか?他の施設に行った事がないのでわかりませんが、少なくとも私のいた施設はそうでした。具体的にどう地獄だったか、この説明は省略します。興味があるなら時間がある時にでも私を霊視してください。勝手に視ていただいてかまいませんから」 いくらいいと言われても、水渦(みうず)さんの辛い過去を視るつもりはない。 だけど、そんな過去があったなんて…… 「施設で辛い思いをしてきたから私の性格は歪んでしまった____なんて言い訳するつもりはありません。きっと元の性分が悪いのでしょう。かと言って私の過去が今の私になんの影響も与えていないとも思いませんが。あの頃の私はとにかく早く自立したかった。施設側も私が成長するにつれ、早く出て行けと言い続けました。だけど、この容姿でしょう?いくら若くたって私の醜さに人は顔を背けます。それに加えてこの性格では就職なんて夢の又夢でした。だから私は姉を頼りました」 お姉さん……? だけど水渦(みうず)さんに家族はいないはずだが……? 「姉と言っても血の繋がりはありません。地獄のような施設の中で唯一優しくしてくれた、私より年上の孤児だった女性です。彼女は美しかった、容姿も心も。昔から性格の悪い私にも良くしてくれて、物心ついた頃から霊が視えた私の話を信じてくれました。まだ霊力がコントロールできなくて矢を撃つ事も出来ず、霊に脅かされ泣いている私を抱き締めてくれました。彼女に霊の姿は視えないのに、それでも私を信じホウキを振り回して助けてくれたのです。そんな彼女は私よりも先に自立して……とはいえちゃんとした就職はできず、カウンターバーのホステスをして生計を立てていました。18才になった私は、彼女のアパートで居候をしながら、あまり人と話さなくてすむ清掃業になんとか潜り込みました。……あの頃、姉と2人で暮らしていた頃が私の人生のピークだったのだと思います」
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