第十二章 霊媒師 水渦ー1

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「姉とはそれきりです。いまだ会っていませんし居場所も知りません。霊視で探せばいいのにと思いますか? やろうと思えば簡単です。私のスキルなら3日、もし鍵さんに依頼すれば半日もあれば見つける事が出来るでしょう。ですがそうはしません。どうしてかって?それは怖いからです。あんな事をして姉の結婚を壊し、仕事を奪い、借金を負わせた私を恨んでいるはずです。会って謝るのが筋です、お金を返すのが義務です、ですがそれができません。逃げているんです。そんな自分が大嫌いです」 水渦(みうず)さんも苦しんでいるんだ。 だけど……厳しいことを言うようだけど、だからと言って他の誰かを傷付けていいということではない。 僕は冷めてしまったラベンダーティーを淹れ直し、水渦(みうず)さんの前に置いた。 「ありがとうございます。ラベンダーティーおいしいです。ハーブティーって他にも種類があるんですか?」 「ありますよ。会社に置いてるだけでも数種類ありますから、今度は違うのを淹れますよ。……ねぇ、水渦(みうず)さん、僕、あなたの過去が辛いものだというのはわかりました、けど……」 「けど? けどなんですか? 言いたい事はわかっています。それとこれとは別、ですよね? コンビニの店長を一方的に滅したのも、姉の人生をメチャクチャにしたのも、私の過去とは無関係だと言いたいのでしょう?そんな事は知っています、」 「だったら、」 言いかけた僕の言葉を遮るように水渦(みうず)さんは続けた。 「ねぇ、岡村さん、私いくつに見えますか? 30? 40? 50? 私、まだ25なんですよ? ほら、驚いた。老けてるでしょう? 肌も荒れているし太っているし醜いし。岡村さんは道を歩いているだけで怒鳴られた事はありますか? 汚物を見るような人の目がどんなものだか知っていますか? 岡村さんのような綺麗な容姿を持った人に、家族みんなでハーブティーを飲むような『どこにでもある普通のサラリーマン家庭』という天国に生まれ育った岡村さんに私の気持ちはわからないんです。私はね、憎んでるんです。私を取り巻いてきた環境も、人も、自分自身も、すべてに対して憎んでいるんですよ」 「そんな……確かに水渦(みうず)さんの過去は辛いものだったかもしれないけど、それは過去の話です、これからの未来は水渦(みうず)さんが造るものでしょう?このままじゃ未来だって辛くなります、」 「綺麗事ですね、反吐がでます。じゃあ岡村さん、こうしましょう。私の過去とあなたの過去を取り替えるんです。あなたは醜男(ぶおとこ)として新聞紙に包まれて公園に放置される。私は美人までいかなくても人並みの容姿でハーブティーを淹れてくれる普通のサラリーマン家庭に生まれる。その後の人生も全部取り替えて、それでも同じ事が言えるなら私は岡村さんに従います。誰も憎まず、清く正しく生きましょう。そして姉にも謝罪しに行きます」 「そんな事……できる訳ないじゃないですか、」 言葉に詰まる。 現実的に考えて、そんなことはできっこない。 だけど……水渦(みうず)さんはできない事はわかっていて、あえて僕にそう言ったんだ。 これはある意味、絶対的な拒絶だ。 僕だけじゃない、誰とも解り合うことは不可能だと言っているようなものだ。
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