第十二章 霊媒師 水渦ー2

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水渦(みうず)&エイミーの霊視(のぞき)タイム~ ガーデンテーブルを挟み、向かい合った社長とユリちゃん……と、あーっ!大福の姿が視えないと思ってたらあんな所にいた! 話をする2人のすぐ近く、春の花が咲く花壇の中で甘い匂いをスンスン嗅いじゃあ、大きなあくびをしている幽霊猫。 くぅ……めっちゃ特等席じゃないの! 「だからな、もう一回言うぞ? ユリのその気持ちは恋とかそんなんじゃねぇんだよ。家族みんな死んじまって独りになって心細さを感じてた時に、たまたま近くにいた大人が俺だったんだ」 幼い子供に言い聞かせるようにゆっくりと、そして優しく諭すように話す社長は、眉を八の字にさせていた。 一方ユリちゃんはというと、鼻をすすり目にいっぱいの涙を溜めながらも、気丈にそれを堪えているのか、キュッと結んだ口元を小刻みに震わせている。 「な? わかるか? 上京して1人暮らしで、初めての会社勤めでよ、新しい環境で慣れないことばかりだから心細いんだよ。俺はこの会社の社長でありユリの研修担当だから嫌でも毎日一緒にいなくちゃならねぇ。この環境が錯覚させたんだ。おまえが俺に抱く感情は恋じゃない。“仕事でわからないことを教えてくれる頼れる存在”が、ただの“頼れる存在”に思えて、好きになった気になってるだけだ」 慎重に言葉を選んでいるのか、いつものおふざけが無い。 それどころか泣き出しそうに唇を噛むユリちゃんを見るあの目は、もはや父親のようだった。 「それによ、ユリはまだ18だろ? 俺は34で歳の差が16もあるんだぞ? 今は良くてもユリがやっと30になった時、俺は46。もっと言えば俺が60の還暦ジジィになった時、ユリはまだ44だ。先のことも考えろ、な?」 歳の差か……確かに16才差というのは大きいかもしれない。 ましてやユリちゃんは高校出たての18才。 せめて今、ユリちゃんが25才くらいだったら、社長の受け止め方も違ってたのかもしれない。 「そんなの……」 聞き逃しそうな程の小さな声がした。 僕も水渦(みうず)さんも思わず身体が前に出る。 ユリちゃんが何か言おうとしているみたいだ。 「なんだ? 言いたいことがあるなら、いくらでも聞いてやる。言ってみろ」 「そんなの、知ってます……!」 なんとか泣かずに絞り出した言葉はたったの一言だったけど、ユリちゃんの気迫に社長は「お、おう」としか答えられない。 「年のことを言うのはズルイです。どんなに頑張っても変えられないもの。それと私……心細いから社長を好きになったんじゃありません。社長が優しいから、爺ちゃんくらいカッコイイから、そばにいるだけで幸せだから、安心するから……」 鼻の頭とほっぺたを赤く染め、細い肩を震わせながら一生懸命気持ちを伝えるユリちゃん。 そんな健気な18才に、大の大人の34才は耳まで真っ赤にさせて狼狽えていた。
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