第十二章 霊媒師 水渦ー2

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僕の必死の訴えに、ポッカーンと口を開けたまま固まる水渦(みうず)さん。 だが、その数瞬後、眉間に深い縦シワがめり込むように刻まれて、細い目がクワッと見開いた。 あ、あれ? なんか思ってた反応と違うような……? で、 『はぁぁぁぁ!?全く違いますけどぉ!?なんで?あんな?私より霊力(スキル)が低くて常にふざけてるハゲ野郎を?話す事と言えば車か筋トレしかない低能を?デリカシーの欠片もなくて失言ばかりのウンコ野郎を?この私が?好きだと?はぁぁぁぁ!?(ブチィィッ!!) なんだおまえ岡村コラ私を馬鹿にしてんのか!?チッ!全然違うわ!ふざけんなよ?()んぞ?だがなんでそう思った?理由を聞かせろや、ああ?』 ぬぉっ!! せっかく丁寧口調になってくれた水渦(みうず)さんだったのに汚い口調に戻っちゃった!! てかめっちゃ怒ってる!! えぇ!? なんで!? 僕の読み外れてた!? 『オラ、さっさと理由言えや、激不愉快。私があんなウンコ野郎好きになる訳ねぇだろうがっ!』 ヤバ!! さっきと同じ嫌な臭いが漂ってきた!! 建物越しに僕を()ろうと矢を撃ってきた時と同じ臭いだ! 水渦(みうず)さんの負の感情が放つ腐敗臭だよ、コレ!! 相当怒ってる!! また矢で撃たれちゃう!! この距離!! 今度こそ当たっちゃう!! 『お、落ち着いてください!いや、だってさっき社長に言ってたじゃないですか! “私と結婚して家族になってくれますか?” って!!最初はただの無理難題だと思ってたけど違うんじゃないですか?本当は好きなんじゃないですか?どさくさ紛れのプロポーズだったんじゃないですか!?』 僕は必死に訴える、そりゃそうだ命懸けだもん! すると水渦(みうず)さんは、さっきのことを思い出しているのか、目線を左上に上げたままムスッと黙りこんだ……数秒後。 『ああ、その事か。清水に私と結婚してくれって言ったアレね、あーあーなるほど……ひひ……ひひひ……ひひひひひひーっひっひっひ!!あの時の清水の顔!!思い出しただけで……ひひひ……おお、愉快愉快!!』 とまぁ、それはそれは楽しそうに表情(かお)を歪めた。 え……ちょ……水渦(みうず)さん……? 『……失礼、ですが理解しました。先程の私の発言が岡村さんを誤解させたのですね。これは私にも非があります。申し訳ありませんでした』 水渦(みうず)さん、丁寧口調に戻った……嫌な臭いも消えた……良かったー! 『誤解を解いておきますが、岡村さんと社長それぞれに一番ダメージが強そうな要望をチョイスして言ったまでです。岡村さんには家族への攻撃を、社長には私との結婚を、ただそれだけです。こんな私にも選ぶ権利はあると思っていますから、大便のような男性は願い下げです』 ウンコ野郎→大便のような男性、と、言葉は丁寧になったけど、やっぱり社長の位置づけはウンコで間違いないみたい。 だけど、そっかぁ、僕の勘違いだったんだな。 でもって少し安心した。 もし水渦(みうず)さんが社長のことが好きだとしたら、今の2人を視てるのは辛いはずだもの。 『岡村さんの勘違いで時間を無駄にしました。さ、ここから先、私語厳禁です。2人を霊視(のぞき)ますよ!』 私語厳禁って……この人、本当はおもしろい人なのかもしれないな。 ま、いいや! 2人を視ても辛くないと言うのなら、なんの問題もない! 心置きなく霊視(のぞき)に集中だ!
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