第六章 霊媒師OJT-2

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会社を出てから約1時間後のPM12時50分、僕らは東京都H市の依頼現場に到着した。 車をアパート前にある駐車場に停めさせてもらい、社長が依頼者に現着した事を電話連絡している間、僕は一足先に車から降りた。 3月の終わり。 スーツだけでは多少肌寒く感じるものの、このところ急に桜の開花が始まり、今ではもう七分咲きだ。 僕は男で花を愛でるという感覚は薄いけど、それでも桜の花は美しいと思う。 このアパートに11年も縛られている田所さんも、桜の花を見る事はあるのだろうか? 「エイミー、待たせたな。依頼主の村越幸恵さんに連絡がついて、部屋の鍵を持ってすぐに来てくれるそうだ。5分程度で着くらしい」 「……いよいよですね。なんだか緊張してきました」 「大丈夫だ。俺もジジィもいるから安心しとけ」 「ありがとうございます。あれ? そういえば先代の姿が見えないですね」 「ったく、どこ行ったんだろうな? もしかしたら、どこかで居眠りこいてるのかもしれん」 「あはは、先代は幽霊恐くないのかな? って、先代も幽霊か。でもこんな時に眠れるって先代大物だなぁ」 「大物かー確かにそうかもなー。でもな、霊が眠るっていうのは、」 と、社長が何か言いかけたその時、 「あの……さっき電話してくれた“おくりび”の清水さんかしら?」 遠慮がちな女性の声に僕らが振り返ると、そこには白髪まじりのふくよかな、アパートオーナーである村越幸恵さんが立っていた。
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