第十二章 霊媒師 水渦ー2

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水渦(みうず)&エイミーの霊視(のぞき)タイム・2~ 「この会社に入る前、爺ちゃんとアパートに向う途中で初めて会った時の事、覚えてますか?」 両手に拳を作ったユリちゃんが、つっかえながらも一生懸命言葉を繋いだ。 「覚えてるよ。最初にエイミーが気付いたんだ、田所さんによく似た子が歩いてるって。あん時、俺らを見たユリと真さん、不信感全開だったよなぁ。ま、無理もねぇけどよ。いきなり呼び止められて『僕達、霊媒師です!』なんて言われたんだから」 そうでしたねぇ。 僕なんて不信感MAXのお爺さんに、免許証見せろって言われたんだ。 あはは、あれじゃまるで職質だよ。 「そそっかしい爺ちゃんが岡村さんを脅かしちゃった時、社長はすぐに2人の間に入ったでしょう? 私、すごく驚いたんです。 だって爺ちゃん、家族には優しいけど、口は悪いしケンカっ早いから、陰で“狂い熊”なんて呼ばれてて、そんな爺ちゃんに逆らおうなんて人は今まで誰もいませんでした。なのに社長、爺ちゃんとケンカ始めちゃうんだもん、ふはは」 そうそう、人の話の半分も聞かないお爺さんが、田所さん(むすめさん)を僕が滅したと勘違いしてチェーンソーで襲ってきたアレでしょ? 僕、よく覚えてるんだからね! てかアレ、そそっかしいってレベルじゃないんだからね! もしお爺さんが生者だったら通報モノなんだからねー! とまぁ、そんなこんなで、僕を庇ってくれた社長は、確かにカッコ良かったと思います。 にしても、お爺さんに“狂い熊”って……んぷ、ぴったりじゃないか。 「あははは、真さん強かったなぁ。俺、親父以外であんなに追い詰められたの初めてでよ。最後の蹴りで倒れてくんなかったらマジ危なかったわ」 そう言って笑う社長は楽しそうで、ユリちゃんもつられて笑っている。 「私……今まで誰かと付き合ったことがないんです。“狂い熊の孫”だからと男子からは避けられてましたし、それに……小さい頃からずっと言われていました、『結婚するなら爺ちゃんみたいな男を選べ』って。私から見た爺ちゃんは、優しくて強くて働き者でいつも豪快に笑ってて……最高にカッコいいの」 「昔気質の男だよな。曲がったことが大嫌いで、仕事に真面目で、家族が大事でよ、」 「……はい。ママが死んじゃって、爺ちゃんと婆ちゃんに引き取られて、何年も声が出なくなって無気力になって、すごく迷惑かけたと思います。だけど絶対に私を責めなかった。『ユリは独りじゃない、爺ちゃんと婆ちゃんずっとが守ってやる。迷惑かけるなんて思うな、むしろかけろ。俺達は家族なんだから』って言ってくれて、どんなに救われたか、どんなに嬉しかったか、」 お爺さんもお婆さんも傷付いたユリちゃんのケアに必死だったんだな。 ショックで声が出なくなった孫娘を深い愛情で守ってきたんだ。 それにしても、お爺さんが言ったユリちゃんへの言葉……どこかで聞いたことがあるような気がするんだよなぁ。 「ねぇ、社長。なにか気が付きませんか?」 清らかな真白の雪に桜の花を散らせたように頬を染めるユリちゃんが、テーブル越しに身を乗り出して社長の顔を覗きこんだ。 ユリちゃんに比べれば巨大な岩石のようなガチムキ男は、少しだけ縮んだ距離に驚いた顔をしたものの、子猫のような愛らしい目に見詰められ、オッサンでもそんな顔できるのかってくらい穏やかな顔でもってこう答えた。 「ん? なにがだ?」 質問を質問で返されたユリちゃんは、 「もう、やっぱりわかってない」 と、ぷっと頬を膨らましワザと呆れてみせる。 「なんだよ? なにがわかってないんだよー、あ、なんだぁ? その顔はぁ。なんだよ、教えろよ、気になるじゃねぇか」 「すぐには教えてあげません。よーく思い出してください。爺ちゃんが私に言ってくれた言葉……それがヒントです」 「真さんが言ったコト? んー、なんだ?わかんねぇよ。ユリ、もういっこヒントくれ!な?な?」 「えぇ? これ以上言ったらすぐにわかっちゃいます。私……社長に思い出してもらいたいです」 「なんだよ、それ……ああ、もう、わかったよ! もうちっとだけ考えてみっから大人しく待ってろ!」 「はい!」
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