第十二章 霊媒師 水渦ー2

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◆ 『……岡村さん』 2人の様子から目を離さないまま、水渦(みうず)さんが僕の名を呼んだ。 その声に抑揚は無く、昔の音声読み上げソフトくらい平坦だ。 同時に腐敗臭まではいかないが、消費期限を3日くらい過ぎたかな?って程度の食品の匂いが僕の鼻腔に入り込んでくる。 この臭い、水渦(みうず)さんご機嫌斜めなんだろうなぁ。 判断つきにくいけど、不機嫌以上、お怒り未満といったところだろうか? てか、なんで? なんで不機嫌なの? 今の流れで腹の立つトコあった? 『社長は16才年下のユリさんを傷付けないよう、やんわりと交際をお断りす為に四苦八苦してましたよね?狼狽えてましたよね?滝汗でしたよね?』 静かな話し方の奥底に納得しかねるなにかが潜んでいるのがわかる。 え……?なにがお気に召さないんです……? 『は、はい、まぁ、いつになくオロオロのアワアワで、頭は滝汗でピカピカだと思います』 とりあえず水渦(みうず)さんの質問に、僕の視たまま感じたままを答えてみる。 『あの無様な狼狽っぷりが愉快で爽快でたまらなく面白いと思っていたのですが____今の2人のやりとり、視ましたよね?岡村さんにはどう視えましたか?』 どう視えたって言われてもなぁ、んー、変な緊張感がなくなったかなぁ、なんだか楽しそうだなぁくらいにしか視えなかったけど、そんな感想でいいのかな? 『は、はい、なんだか楽しそうですよね。ユリちゃんはクイズっぽいの出してたし』 『ですよね?ユリさんが楽しそうなのはかまいません。ですが社長が楽しそうなのは非常に不愉快です』 あーなるほど、不機嫌の理由はそこだったのね。 社長が楽しそうだと不愉快なんて、もーよっぽど嫌いなんだなー。 なんと答えていいのやら、うーん。 『なんですか?あの気分が悪くなる笑い顔は。なんですか?あの「もうちっとだけ考えてみっから大人しく待ってろ」などと嘔吐を誘う台詞(セリフ)は。34のクソハゲジジィが言って許されるものではないですよね?と言いますか、あの生ぬるい雰囲気、まるで付き合いたてのカップルみたいですよね?』 え、ちょ、水渦(みうず)さん? 付き合いたてのカップルというより日曜日の父と娘に近いと思いますよ? それに社長はいたって普通に話してるだけだと思うんです? 嘔吐を誘うって……要はもらいゲロしそうってことでしょう? それはいくらなんでも言いがかりでは? もう捉え方が歪んでるなぁ。 だけどブレることなく、ここまで悪態ついてるのを見てると、いきすぎちゃってて、もはや水渦(みうず)さんの持ちネタみたいに思えてきたよ、悪態芸人的な感じでさ。 ハッ! もしかして! 本当の水渦(みうず)さんって、実はすごく良い人で、この悪態も一般人には理解が難しい高度なギャグだったりしちゃいます!?……って、んな訳ないか。
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