第十二章 霊媒師 水渦ー2

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水渦(みうず)&エイミーの霊視(のぞき)タイム・3~ 花の匂いを嗅ぐのに飽きたのか、ガーデンテーブルの上に移動した大福が、2人の間でぷーぷー鼻を鳴らし丸くなって眠っている。 ユリちゃんは、首を傾げて考え込む社長を、頬杖をつきながら幸せそうに眺めていた。 2人共とも黙っているのに、流れる空気は柔らかい。 フワリと吹いた春の風が、ユリちゃんの前髪と大福のホワホワな猫の毛を揺らす。 それを霊視(のぞ)きながら僕は、平和だなーなんてほのぼのした気分になっていた。 やがて揺れる毛を持たないツルツル頭の社長が、長めのシンキングタイムに「だめだー」と降参の声を上げた。 「いやぁ、わかんね! ギブだ! 教えてくれよ、ユリはなにを思い出してほしかったんだ?」 相変わらず眉を八の字に下げ、ユリちゃんの答えを待つ社長。 ユリちゃんはそんな社長にコホンとひとつ咳払いをしてこう言った。 「仕方ないですね、教えてあげます」 えへんとユリちゃんが胸を張り、社長はそれに合わせて「お願いしますよ、ユリ先生」とおどけてみせた。 「ふはは、いつもと逆ですね。仕事中は社長が先生なのに」 「ばかだな、俺は先生なんかじゃねぇよ。ユリは俺より年下だけど、おまえに教わることもたくさんあるからな」 「え、や、そんなコトないです、私なんてまだまだです!」 顔を真っ赤にして慌てて否定するユリちゃんは、うーうー唸ったかと思ったら、突如テーブルの上で丸くなる大福にボフンと顔を埋めた。 え!? ど、どうしたの!? なにしてるの!? って、ああ!そうか!わかった! 照れて顔が熱くなったから、ひんやり幽霊猫で冷やしているんだ! なるほどね、うまいコト考えたなぁ。 今後、風邪を引いて熱が出たら僕もマネしてみようっと。 大福のワガママボディで粗熱をとったユリちゃんは、パンパンっと両手で顔を叩いて仕切り直した。 「ママが死んで父が逮捕されて独りになって、それまで会ったこともない爺ちゃんと婆ちゃんに引き取られ、慣れない田舎暮らしが始まって、あの頃の私はこの世の中で独りぽっちだって思っていました。爺ちゃんも婆ちゃんも優しかったけど、私が来たことで近所からヒソヒソされたし、私のご飯代や教科書代でお金だっていっぱいかかるから、申し訳なくて、自分はお荷物なんだと思ってました」 そうか……田所さんが殺されて警察から連絡があって、その時初めてユリちゃんという孫がいると知ったんだよな。 あの事件がなかったら、お爺さんもお婆さんも、自分達に孫がいるということすら知らなかったかもしれなかったんだ。 「そんな時に爺ちゃんに『迷惑かけるなんて思うな、むしろかけろ。俺達は家族なんだから』って言われて……それから少しずつ私達は家族になってきました。なのに爺ちゃんも婆ちゃんも立て続けに死んじゃって、私は本当に独りになりました。だから社長に拾ってもらえて嬉しかった。……社長が言った通りなんです。天涯孤独の1人暮らしに初めての会社勤め。不安だらけで心細くて、社長も岡村さんも先代も大人でしっかりしてるのに、私1人が未熟者だから迷惑かけないように頑張らなくちゃって、すごく気を張ってました、」 ユリちゃん、ごめん、それは大きな勘違いだよ。 先代は別だけど、僕も社長も30過ぎてるけど大人ではない。 僕は猫バカだし社長は車バカだもの。 てか、ユリちゃん、社長と一日中毎日一緒にいるのに、社長(アレ)見て大人だと思ったの? 恋は盲目とはよく言ったものが……それにしたって、恋、恐るべし!
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