第十二章 霊媒師 水渦ー2

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そう言って社長は椅子から立ち上がると、2人を隔てていたガーデンテーブルをまわり、ユリちゃんを自分のデカイ背中に隠した。 そして事務所側に巨体を向き変えると、コキコキと指と首を鳴らしながらスゥーーーーっと息を吸い込んで、 「オイィィィィ!! ミューズゥゥ!! それからエイミーも一緒かぁぁ!! おまえらそこで隠れて俺達のこと霊視(のぞいてる)だろう!!  今すぐヤメロッ!! でないと後悔することになるからなぁぁっ!!」 と近隣からクレームが入るんじゃないかってくらいの大声を張り上げた。 バレたーーーーーーーー!! ギンッと捕食者の形相で事務所(こちら)を視る社長にびびった僕は、半泣きで慌てふためき水渦(みうず)さんに詰め寄った。 『み、み、み、水渦(みうず)さん!ヤバイ!バレました!社長にシバかれます!今すぐ霊視(のぞくの)やめましょう!でもって謝りましょう!大丈夫です!僕、謝るの得意なんで!』 秒で白旗を上げる僕と真逆に、水渦(みうず)さんは至って落ち着いていた。 『相手は腐っても霊媒師です。こちらが霊視(のぞいて)いるのがバレるのは時間の問題だと思っていました。予想より遅かったのは、珍しく告白なんてされた社長に余裕がなかったからではないでしょうか?まあ、ヤツはカッコつけですから、この状況でユリさんを置き去りにしてまで、こちらには来ないはずです。どうせ後で怒られるなら、ギリギリまで霊視(のぞき)ましょう。さ、もう一度私の肩に手を置いて、』 ほら早く、とでも言いたげに、水渦(みうず)さんは自分の肩をポンポンと叩く。 が、しかし、あの剣幕を視た僕に霊視(のぞき)続行の勇気は1ミリも残っていなかった。 『えぇ!? 水渦(みうず)さんって度胸ありすぎ! 社長ですよ? 格闘系な男ですよ? ガチで怒ったらミンチにされますよ!?』 だ、だ、だ、だけど僕だって男だし! 社長が本気でシバきにきたら、み、み、み、水渦(みうず)さん守るし! なんて、けっこう本気で考えていたのに、この先輩ときたら、 『あー、確かに。有り得ますね。ですが、あんな筋肉馬鹿でも、ヤツは根っからのフェミニストです。しかも女の美醜は問いません。私のような醜女(しこめ)でも、決して暴力は振う事はないでしょう。ゆえに、万が一社長がブチ切れても私は無事でしょうから問題ありません。岡村さんは男性ですから……挽肉にされる可能性は高いでしょうけど』 とか言いやがった! 『うっわー! 出た! この自分さえ良ければ他人はどうなってもいいって考え! 水渦(みうず)さん、この際だからハッキリ言わせてもらいますが、そういうの良くないと思いますよ! てか、なけなしの僕の漢気、超ムダァ!』 『漢気……? なんの事でしょうか?時々岡村さんは訳の解らない事をいいます。解る部分に答えるならば、「自分さえ良ければいい」この考えが好ましくないというのは一般論として理解しています、が、しかし、人間なんて本心ではみなそうなのではないでしょうか?』 そう答える水渦(みうず)さんから、ほんのりと腐敗の臭いが漂ってきた。 だけど、かまうもんか。 『そんなことありません!』 『絵空事です』 『いいえ!違います!』
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