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引かない僕に水渦さんは大きな溜息をついた。
『はぁ、疲れます。さっきも言いましたが岡村さんは、家族でハーブティーを飲むような恵まれた環境で育ったから、世の中の汚い事がわからないのです。だから、』
『だから?だからなんですか?施設育ちはそんなに偉いんですか?不幸な生い立ちなら他人を傷つけてもかまわないと?家族でハーブティーを飲む僕の言うことなんか聞く価値もないと?僕と水渦さんの過去を取り替えない限り理解しあうことはできないと?冗談じゃない!そんなことは不可能だ!できないことをワザと言って他人を拒絶しているだけだ!』
無理難題を突き付けて人の意見は拒絶する、そんな水渦さんが言いそうなことを先回りして食い止めた。
すると、
『ならどうしろと?岡村さんのかざす正論には反吐が出ます。人は皆、自分さえ良ければいいのです。いざとなれば他人など蹴落として己の利を守るのです。それを表に出すか出さないかの違いだけ。一皮剥けば皆、心は醜いのです。それが違うと言うのなら、どうしたら岡村さんのようなご立派な人間になれるのかを教えてくださいよ』
水渦さんから発せられる腐敗臭がますます強くなってきた。
だけどもう後には退けない。
『僕は……!ご立派な人間なんかじゃありません!偉そうなことを言いましたが、僕だって間違ってばかりの人間です。ですが「一皮剥けば皆、心は醜い」これは少し違います。確かに心の醜さは誰にでもあると思います、僕にもきっと社長にも。だけど、その醜さを恥じる心も持っています』
フンと鼻で笑った水渦さんは、バカにしたような目を向けた。
『あいにくですが____醜さを恥じるような心は持ち合わせていません。私は、』
『嘘だ!』
続く言葉を遮って、僕は彼女を否定した。
すると、あからさまに不機嫌そうな目をした水渦さんが僕に問う。
『なにが嘘なのですか?』
『それならどうして水渦さんはお姉さんに会いに行かないんですか?お姉さんの仕事を、恋人を、奪い壊したことを後悔してるからでしょう?姉さんに恨まれているかもしれないと恐れてるからでしょう?水渦さんが本当に「自分さえ良ければいい」と言うのなら、お姉さんに嫌われようと、恨まれようと、関係ないですよね?』
『………………』
水渦さんは、じっと僕を見たまま黙り込んでしまった。
お姉さんのことを持ち出され、なにも言えなくなった水渦さんからは相変わらず腐敗臭が漂ってくる。
だけど気のせいだろうか?
さっきよりも腐敗臭は弱くなっていた。
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