第十二章 霊媒師 水渦ー2

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引かない僕に水渦(みうず)さんは大きな溜息をついた。 『はぁ、疲れます。さっきも言いましたが岡村さんは、家族でハーブティーを飲むような恵まれた環境で育ったから、世の中の汚い事がわからないのです。だから、』 『だから?だからなんですか?施設育ちはそんなに偉いんですか?不幸な生い立ちなら他人を傷つけてもかまわないと?家族でハーブティーを飲む僕の言うことなんか聞く価値もないと?僕と水渦(みうず)さんの過去を取り替えない限り理解しあうことはできないと?冗談じゃない!そんなことは不可能だ!できないことをワザと言って他人を拒絶しているだけだ!』 無理難題を突き付けて人の意見は拒絶する、そんな水渦(みうず)さんが言いそうなことを先回りして食い止めた。 すると、 『ならどうしろと?岡村さんのかざす正論には反吐が出ます。人は皆、自分さえ良ければいいのです。いざとなれば他人など蹴落として己の利を守るのです。それを表に出すか出さないかの違いだけ。一皮剥けば皆、心は醜いのです。それが違うと言うのなら、どうしたら岡村さんのようなご立派な(・・・・)人間になれるのかを教えてくださいよ』 水渦(みうず)さんから発せられる腐敗臭がますます強くなってきた。 だけどもう後には退けない。 『僕は……!ご立派な人間なんかじゃありません!偉そうなことを言いましたが、僕だって間違ってばかりの人間です。ですが「一皮剥けば皆、心は醜い」これは少し違います。確かに心の醜さは誰にでもあると思います、僕にもきっと社長にも。だけど、その醜さを恥じる心も持っています』 フンと鼻で笑った水渦(みうず)さんは、バカにしたような目を向けた。 『あいにくですが____醜さを恥じるような心は持ち合わせていません。私は、』 『嘘だ!』 続く言葉を遮って、僕は彼女を否定した。 すると、あからさまに不機嫌そうな目をした水渦(みうず)さんが僕に問う。 『なにが嘘なのですか?』 『それならどうして水渦(みうず)さんはお姉さんに会いに行かないんですか?お姉さんの仕事を、恋人を、奪い壊したことを後悔してるからでしょう?姉さんに恨まれているかもしれないと恐れてるからでしょう?水渦(みうず)さんが本当に「自分さえ良ければいい」と言うのなら、お姉さんに嫌われようと、恨まれようと、関係ないですよね?』 『………………』 水渦(みうず)さんは、じっと僕を見たまま黙り込んでしまった。 お姉さんのことを持ち出され、なにも言えなくなった水渦(みうず)さんからは相変わらず腐敗臭が漂ってくる。 だけど気のせいだろうか? さっきよりも腐敗臭は弱くなっていた。
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