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『それは……キーマンさんや弥生さんもですか?』
おずおずと尋ねる僕に、水渦さんは至って淡々と答えてくれた。
『鍵さんは岡村さんとは別の意味で変わった人ですから、どんなに辛辣な言葉を投げてもすべてインチキな英単語で返してくるので話になりません。大倉さんは前に喧嘩になりまして、彼女の大事な鬼殺しすべて3階の更衣室から落として割って以来、口をきいてくれなくなりました』
『うわぁ……弥生さんのお酒みんな割っちゃったんだ……水渦さん、そんなことして、よくご無事でしたねぇ。殺されそう……』
『さすがに身の危険を感じました。あの時は喧嘩の仲裁に入った社長と先代の命令で、割ってしまった鬼殺し分の代金を支払って収束しました。彼女はそのお金で一升瓶ではなくペットボトルの鬼殺しを買ってきたのですが、それを見て、意外と学習能力があるのだなと感心しました。鬼殺しはただ単に飲むだけじゃなく、彼女の場合お祓いで使うので二度と割られたくないと思ったのでしょう』
僕の脳裏には女子更衣室で見た、複数本転がる徳用5リットルの鬼殺しが浮かんでいた。
すべての鬼殺しががペットボトルだったのは、そういう経緯があったのか。
『うわぁ……うわぁ……ヒドすぎる……そりゃ関わりたくないと思われるわ……』
思わず漏れた独り言に、水渦さんは、僕を覗き込むようにこう言った。
『……岡村さんも今の話を聞いて、やはり私とは関わりたくないと思いますか?』
『や……そんなことはないですけど……めっちゃ引きました。そんなことばかりしてたら、そのうち友達いなくなっちゃいますよ?』
『大丈夫です。いなくなる友達がいませんから』
『えぇ!?まさか1人も!?』
『ええ、1人もです』
『嘘でしょ?』
『本当です』
『うわ…』
水渦さんのボッチぶりに僕は改めて驚いた。
だけどそれ以上に驚いたのは、強弱はあれど、ずっと漂っていた腐敗臭がいつの間にか消え去って、かわりにラベンダーの爽やかな香りが広がっていたことだった。
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