第十二章 霊媒師 水渦ー2

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◆ 「遅刻、遅刻ー!」 そう言いながらドタバタと事務所に入ってきたのは先代だった。 先代が遅刻なんて珍しい。 こりゃ、また駅前で先代の姿が視える霊力持ちを探して夢中になってしまったパターンか? 「いやぁ、みなさん申し訳ない。駅でね、私の姿が視える人がいないか探してたらこんな時間になっちゃいました」 「「「「やっぱり」」」」 事務所にいた社長に水渦(みうず)さんにユリちゃんに僕、4人の声が揃った。 「みなさん、私の行動なんてお見通しなんですねぇ、うふふ。 おっ、水渦(みうず)ちゃん、おはよう。N県から帰ってきたんだねぇ、1人の現場は大変だったでしょう?ご苦労様、ありがとうねぇ。今日は報告書と交通費精算かな?」 先代が水渦(みうず)さんの仕事を労うと、意外にも彼女は椅子から立ち上がり背筋を伸ばし、礼儀正しく報告を始めた(社長への態度とえらい違うぞ)。 「先代、おはようございます。N県の現場は無事完了しました。報告書は作成済みですので後程提出させていただきます。また明日から3日間、公休と代休を合わせてお休みをいただきますが、特に予定もありませんので急な依頼が入った時にはご連絡いただければと思います」 水渦(みうず)さん、3日も休めるならゆっくりすればいいのに。 緊急時は連絡ください、なんて僕なら絶対いわないよ(まぁ、連絡来たら行くけどさ)。 さっき友達は1人もいないって言ってたけど……あはは、本当だったんだんなぁ。 「水渦(みうず)ちゃん、いつもありがとう。なにかあっても出勤者でなんとかするけど、もし本当に困ったらお願いねぇ」 笑顔の先代に水渦(みうず)さんは、無表情のまま頷いた。 本当にこの人は不器用だ。 先代に「ありがとう」って言われて嬉しいはずなのに。 彼女が頷いた瞬間、爽やかなラベンダーの香りがしたのを僕は知っている。 「なんですか?さっきからジロジロと見て感じが悪いです。言いたい事があるならハッキリどうぞ?」 眉間にシワを寄せた水渦(みうず)さんが、簡単に言うと「なに見てんだ、コラ」的なことを言ってきた。 不機嫌全開な感じだけど、いまだラベンダーの香りは消えていない。 「いや、その、水渦(みうず)さんはもっと笑ったらいいと思いますよ?」 あ、ちょっとコレ、水渦(みうず)さんの彼氏でもないのに変なコト言っちゃったかなぁ、なんて思っていたら案の定。 「……キモ」 と一言吐き捨てられた。 わー! 僕、今日2回目の「キモイ」いただきましたー!(1度目は朝、見知らぬ女子高生にいただいた) てか……ひどい……落ち込んじゃうよ。
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