第十二章 霊媒師 水渦ー2

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◆ 「うわぁ!うわぁ!若いっていいねぇ!生きてるっていいねぇ!恋っていいねぇ!」 社長とユリちゃんが付き合うことになったと聞かされた先代は、お祭り状態ではしゃいでいた。 小柄な幽体(からだ)を右に左に上に下にと大忙しでクルクル回し、さながら大澤病院のネゴシエーター兼ダンサーのタカシさんばりの激しさだ。 そんな様子に社長は「おおげさなんだよ」と頭を掻いているし、ユリちゃんはいちいち先代に頷いているけど、よほど嬉しいのだろう、ふにゃっと笑う顔が微笑ましい。 一方水渦(みうず)さんは、16ビートに舌打ちしながら顔をめいっぱい歪ませているのだが、おそらく、16ビートの舌打ち→社長への苛立ち、顔を歪ませている→ユリちゃんに微笑みかけている、なんだと思う。(一応ラベンダーの香りは消えてないし) 「若いからこそ、生きてるからこそ、恋ができる! 健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすんだねぇ!」 一向に落ちる気配のない先代のテンションは右肩上がりでノリノリである。 てかなんか、そのセリフ、どこかで聞いたことがあるんですけど。 “健やかなるときも”から以下、結婚式で神父さんが唱える誓いの言葉じゃなかったか? 先代、一回落ち着きましょう。 社長とユリちゃんは、今日からお付き合いが始まるんです。 それじゃあ、まるで、いろいろすっ飛ばして今日にでも結婚するみたいじゃないですか。 あははは、まったく、気持ちはわかるけど、フライングですよ。 「あぁん!もう!ステキ!ステキすぎぃ!清水君!ユリちゃん!結婚おめでとう!」 あははは、だーかーらー落ち着いてってくださいって。 僕とユリちゃんは目を合わせると、どちらかともなく笑ってしまった。 こういうの親心っていうんだろうなぁ。 生涯独身貴族を全うした先代にとって、社員達は家族であり子供だと言っていた。 特に社長みたいな手のかかる社員(こども)が、幸せになるのが嬉しくてたまらないのだろう。 社長とユリちゃんが結婚かぁ、いつか本当にそうなるといいなぁ。
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