第十三章 霊媒師 清水誠

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◆ 長い焦茶の外塀がやっと途切れた所で、車は減速し敷地内へと入っていった。 芝生が敷き詰められた大きな庭には、花を終わらせた梅の木が青々とした葉を揺らしている。 両面カットされた大きな切り株が、所々無造作に転がっているけれど、あれはなにに使うんだろう? せっかく広い庭だから、あの切り株を椅子にしてお茶でも飲むのだろうか? それにしては大きさがバラバラだ。 芝生ゾーンを横目に、駐車スペースに続くコンクリの上をゆっくりと進み、僕らを乗せたランサーエボリューションは突き当りでエンジンを止めた。 「着いたぞ」 時間にして5分強で到着した社長の家は、古い旅館を連想させる大きな日本家屋だ。 庭も広いが建物も相当にデカイ。 「立派なおうちですね……私、なんだか気後れしちゃいます」 助手席から降り立ったユリちゃんが、誰に言うでもなく不安そうに呟いた。 そんなユリちゃんに社長は、 「立派じゃねぇよ。古いからそう見えるだけだ。中はボロボロだからびっくりするぞ。ん?なんだユリ、緊張してんのか?大丈夫だ、俺がいる」 と笑い、ユリちゃんのほっぺたをプニプニとつまむ。 すると半べそ状態だったユリちゃんが「社長、くすぐったいです」と、花が咲いたように笑った。 あ、甘い、甘いぞ……! あの社長が女の子のほっぺたつまむとか……もう! 愛って、恋って、恋愛って、スゴイ……! だ、だけど、悔しくなんかないんだからね! 僕には愛しの幽霊猫、大福がいるし! 大福がいれば最高に幸せなんだからね! …… ………… 最近の僕は大福さえいれば大満足で、恋とか結婚とかへの興味が薄れつつあるのだ。 どこかで聞いたことがあるんだよなぁ。 猫を飼っていると婚期が遅れるって。 僕、もう30なのに。 …… ………… うーん、でも、ま、いっか。 そうだよ! なんなら大福が僕の嫁ってことで解決だ! 「エイミー、なにボケッとしてんだ?親父を紹介するから(なか)入るぞ。ウチは母親はいねぇし兄弟もいねぇ。家族は親父だけだから気楽にしていいからな」 大福と結婚するというステキな僕の妄想を、社長の大声で中断させられた。 見ればユリちゃんと先代は、社長に連れられて玄関前まで移動している。 あー! なんてこった! 僕の嫁まで先に行っちゃってるよ! 待って! 今行くから置いてかないで!
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