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長い焦茶の外塀がやっと途切れた所で、車は減速し敷地内へと入っていった。
芝生が敷き詰められた大きな庭には、花を終わらせた梅の木が青々とした葉を揺らしている。
両面カットされた大きな切り株が、所々無造作に転がっているけれど、あれはなにに使うんだろう?
せっかく広い庭だから、あの切り株を椅子にしてお茶でも飲むのだろうか?
それにしては大きさがバラバラだ。
芝生ゾーンを横目に、駐車スペースに続くコンクリの上をゆっくりと進み、僕らを乗せたランサーエボリューションは突き当りでエンジンを止めた。
「着いたぞ」
時間にして5分強で到着した社長の家は、古い旅館を連想させる大きな日本家屋だ。
庭も広いが建物も相当にデカイ。
「立派なおうちですね……私、なんだか気後れしちゃいます」
助手席から降り立ったユリちゃんが、誰に言うでもなく不安そうに呟いた。
そんなユリちゃんに社長は、
「立派じゃねぇよ。古いからそう見えるだけだ。中はボロボロだからびっくりするぞ。ん?なんだユリ、緊張してんのか?大丈夫だ、俺がいる」
と笑い、ユリちゃんのほっぺたをプニプニとつまむ。
すると半べそ状態だったユリちゃんが「社長、くすぐったいです」と、花が咲いたように笑った。
あ、甘い、甘いぞ……!
あの社長が女の子のほっぺたつまむとか……もう!
愛って、恋って、恋愛って、スゴイ……!
だ、だけど、悔しくなんかないんだからね!
僕には愛しの幽霊猫、大福がいるし!
大福がいれば最高に幸せなんだからね!
……
…………
最近の僕は大福さえいれば大満足で、恋とか結婚とかへの興味が薄れつつあるのだ。
どこかで聞いたことがあるんだよなぁ。
猫を飼っていると婚期が遅れるって。
僕、もう30なのに。
……
…………
うーん、でも、ま、いっか。
そうだよ!
なんなら大福が僕の嫁ってことで解決だ!
「エイミー、なにボケッとしてんだ?親父を紹介するから家入るぞ。ウチは母親はいねぇし兄弟もいねぇ。家族は親父だけだから気楽にしていいからな」
大福と結婚するというステキな僕の妄想を、社長の大声で中断させられた。
見ればユリちゃんと先代は、社長に連れられて玄関前まで移動している。
あー!
なんてこった!
僕の嫁まで先に行っちゃってるよ!
待って!
今行くから置いてかないで!
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