第十三章 霊媒師 清水誠

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通された部屋は、庭に面した広い和室だった。 床の間には花が飾られ、その後ろの掛け軸には荒々しい筆遣いで【筋肉】と書かれていた。 部屋の真ん中の大きな座卓の向こう側に社長のお父さんが、こちら側に社長とユリちゃんが、気持ち距離を置いたその隣に僕と先代が座り、大福は庭の芝生でのんびりお昼寝中である。 「親父、紹介するよ。コイツはエイミー、先月入った新人でまだ研修中だが、持ってる霊力は相当で、ウチの会社の期待のルーキーだ」 ちょ!社長! こんな時までエイミーで紹介しないでくださいよ! 相変わらず本来のフルネームをスルーする社長に焦りつつも、 「初めまして、岡村英海と申します。社長にはいつもお世話になっております。本日は精一杯通訳をさせて頂きますのでよろしくお願いいたします」 と座卓スレスレまで頭を下げた。 そう、今日の僕は通訳なのである。 社長とユリちゃんが結婚するにあたり、清水家と藤田家の顔合わせに誘われてなんの気なしに了承した僕だったけど、聞けば社長のお父さんに霊感はなく、死者である藤田家の皆さんとの仲介をしてほしいと頼まれたのだ。 「キミがエイミー君か!誠からよく聞いてるよ。霊感が強くて猫が好きな子だろう?ところでウチの誠は迷惑かけてないかい?年ばっかり食ってるくせに中身はガキで困ったもんだ。それから今日は休みなのに来てもらって悪かったね。私には霊感がないから助かるよ。こちらこそよろしくお願いします」 社長のお父さんは人懐こく破顔すると、丁寧にお辞儀をしてくれた。 なんだか優しそうな人だな。 「で、親父、この子がユリだ。俺はユリと結婚するからよ」 社長の紹介を受けたお父さんは目線をユリちゃんに移し、数瞬、だがまるで射るように見詰めたかと思ったら、難しい顔でしばし黙り込んだ。 そして、 「あぁ、いや、失礼。初めましてユリさん。誠の父で、清水大和と申します、」 そこで言葉を止めた社長のお父さん____大和さんは戸惑いを隠せない様子でユリちゃんをジッと見詰める。 先に口を開いたのはユリちゃんだった。 「は、初めまして。藤田ユリと申します。社長の……いえ、誠さんの会社で事務の仕事をしています。まだ入社したばかりで勉強することが多いのですが、誠さんが丁寧に教えてくださるので、とても助けられています……それで……あの、」 あまりにもジッと見詰める大和さんの視線に、とうとうユリちゃんは固まってしまった。 そこで助け舟を出したのは社長だった。
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