第十三章 霊媒師 清水誠

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◆ 「話がまとまったトコで、今からユリの家族を口寄せするからよ。エイミー3人が来たら通訳頼むわ」 大きなガラス戸を開け放し、庭へと続く縁側から外履きのサンダルを引っ掛けた社長が芝生の上に立った。 その社長の足音で目を覚ました大福は、んーーーと大きく伸びをした後、入れ替わるように部屋の中に上がり込み、そのまま先代の膝によじ登って丸くなる。 きゃー!眠たそうな大福カワイー! だけどなんで僕じゃなくって先代のお膝なの……? ん、ちょっとジェラシー。 芝生の庭の中央に立った社長は、コキコキと首を鳴らし、グリングリンと肩を回して腰を捻り始めた。 準備運動でもしているかのようなストレッチだ。 口寄せは先代がユリちゃんのお婆さんを呼ぶ時に1度視たことがある。 あの時先代は、映画で見た陰陽師のように立てた二本の指を顔前に構え、小さく呪文を唱えて霊道を通した。 社長もやはり陰陽師になるのだろうか? 同じ霊力者でも持つ力と方向性は個々に違う。 もしかしたら先代とは違った方法で口寄せするのかもしれない。 どちらにしても目の前で口寄せを視るいい機会、いずれは僕も習得しなくてはならないスキルだもの、よく視ておかなくては。 入念なストレッチを終えた社長は、なにを思ったのかおもむろに指を噛んだ。 ……? なんで指を噛んだのかわからないまま動向を見守っていると、大股で歩きだし庭に転がる切り株の前で止った。 そして大きな身体を屈め、噛んだ指で木肌をなぞる。 ただそれだけの作業を終えると、再び大股で歩きだし、残るもう2つの切り株にも同じことをした。 「先代、社長はなにをしてるんですか?」 なにがなんだかさっぱりな僕は、隣に座る先代に質問を投げかけた。 すると、 「あれはねぇ、清水君の式神を呼ぶために、依り代の準備をしているの」 「シキガミ?ヨリシロ?なんですか?それは」 「式神はね、術者が意のままに操れる霊のことをいうの。呼び出せる式神には神様、妖怪、鬼神といろんなタイプがあるけれど、清水君が呼び出せるのは思業式神なんだ。簡単に言うと術者の思念から(・・・・・・・)造られた式でね、清水君の能力がそのまんまコピーされるのよ」 え……てことは社長と同じキャラが増えちゃうの? こ、濃いな……社長嫌いの水渦(みうず)さんが聞いたら発狂しそう。 てか、水渦(みうず)さーん!霊視(のぞいて)ますかー!おーい!おーい! 僕はとりあえず小さく手を振ってみた。 「それでね、依り代と言うのは、その呼び出した式神を一時的に憑依させる器のことなんだ。器として用いるのにポピュラーなのは、木、石、動物、鏡……まあ、地域や術者によって様々だけど、生きた人間に憑依させるってのもあるねぇ」 「人に憑依させる!?」 「そんなに驚く事じゃないよ。死んだ人の魂を自分の身体に憑依させて好きに喋ってもらう……なんて、映画や小説で見たことなぁい?」 「そう言われてみればあります、」 「清水君はね、あの切り株を依り代にして思業式神を呼び出そうとしているの。さっき指を噛んでいたのは、自分の血液を切り株につける為。血液を媒体に、切り株に式を定着させるんだ」
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