第十三章 霊媒師 清水誠

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だが僕の心配をヨソに社長の奇行は続いた。 「ぐぅぅぅっ!!はっぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!」 びっくりするよな雄叫びを上げた社長は、鋼の両腕を水平に持ち上げ力強く折り曲げて、凶悪な程に強そうなガッツポーズを完成させた。 ボタンを失くし露わになった胸元は、黒いタンクトップがはち切れんばかりにのびているし、Yシャツの腕の部分は筋肉の圧力を掛けられて、内側から破けそうな勢いだ。 「ダァァッシャッ!!」 さらに短くもう一雄叫(ひとおたけ)び。 ボンッ!! 溢れる気合と共に社長の身体が巨大化した。 あれはパンプアップだ。 昔、近所のジムに体験入会をした時、トレーナーさんから聞いたことがある。 筋肉に負荷を与え続けることによって、血液やリンパ液が増加して膨らむ現象だ。 えっと……今……口寄せしてるんだよねぇ? 思業式神呼ぶとこだよねぇ? なんなん? これ。 戸惑いと疑問を抱きつつ、チラリと先代を覗き見れば、いつも通りニコニコと見守っているし、ユリちゃんに至っては「どうしよ……すっごいカッコイイ……!」と目がハートマークになっている(恋ってスゴイな)。 ビリッ ビリィィィッ!! ビリビリビリビリッ! 突如、絹を裂く高い音がいくつも重なった。 ああ……もう……ウソだろ……? 尋常じゃないパンプアップに耐えきれなくなったYシャツの腕が、肩が、背中が、縫い目の部分を中心にビリビリに裂け破けていた。 さすがにタンクトップは伸縮性があるせいかパンプアップに耐えているけど、一子相伝の拳法家じゃあるまいし、筋力だけで衣服破くとか……もう訳がわからないよ。 しかし……改めて見るとスッゴイ身体だ。 上半身が数えきれない筋肉のブロックに仕切られて、これでもかと鋼の肉体を見せつけている。 凶悪なガッツポーズから曲げた肘はそのままに、ぐいんと肩を半回転。 拳を腹の前に移動させ、やや前屈みに構えてみると、その姿はまんまボディビルのポージングだった。 「モォォォォォストォォォォォマスキュラァァァァアアアアア!!」※1 社長のよくわからない叫びにポカンとしていると、ドンッ!! と落雷のような音がした。 同時、鋼の身体のあらゆる部位から、赤く光る無数の剣が速度を持って発射され、転がる切り株に数多突き刺さった。 身体から……剣……? 否、よく視ればそれは剣ではなかった。 四方八方、切り株に突き刺さったそれは、バチバチと激しく火花を散らしている。 あれは電流だ。 社長が放った電気の塊が、鋭利な剣と形を変えて切り株に突き刺さったんだ。 大小様々3つの切り株を貫く赤い剣は、数瞬の間を置くとまるで生き物のように蠢いて、やがてそれは何百何千もの無数の電気の糸へと姿を変えた。 その糸は意志を持っているのかごとく、互いが互いを絡め編み込み、瞬く間に人の形にモデリングされていく…… 「……アレなに……?」 僕は小さく呟いた。 情けないことに目の前で起きたことに頭が追い付かない。 「せ、先代……あれって、」 切り株に絡みついた赤い光は、モデリングを完了しゴツデカイ人の形へと進化を遂げた。 全部で3体。 そう、3体だ。 ※1【モストマスキュラー】『最もたくましい』という意味のボディビルのポージング……らしいです。
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