第十三章 霊媒師 清水誠

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藤田家の皆さんを黄泉の国にお迎えに行った壱号さん達を待つ間、しばしの自由行動になった。 それにしても……口寄せって術者によっていろんな方法があるんだなぁなんて感心していると、後ろから「ふわぁぁ……」と大きな欠伸が聞こえてきた。 振り返るとそれは大和さんだった。 「あ、ごめんごめん。退屈になっちゃって、つい。まだユリさんのご家族はいらしてないんだよね? さっきから誠が庭でストレッチ? 筋トレ? かなんかしてるけど、アレなにしてるの? これからご挨拶だってのにYシャツ破いちゃうし、もう……みなさんがいらっしゃる前にとっとと着替えさせないと、」 そうか。 大和さんには、社長の放電も思業式神の3人も視えないから、訳がわからない状態なんだ。 破けたYシャツを急いで着替えに行った社長の代わりに、僕は簡単になにがあったのかを説明をした。 「そうなの? 誠はそんなことしてたんだ。ああ、私にも視えたら良かったのに」 「社長はスゴイんですよ。僕も何度助けられたことか」 行動に難ありなトコもあるけど、最終的にはいつだって助けてくれる。 そこはもう感謝しかないのだ。 「ああ、そう、そうなの。仕事はちゃんとしてるみたいで安心しました。あの子は昔から面倒見は良かったんだ。だけど少々空気を読まないというか、強引なところがあって誤解されやすい。だからエイミー君にそう言ってもらえると嬉しいよ。これからも仲良くしてあげてね」 大和さんはそう言ってにっこりと笑う。 ああ、やっぱり良いお父さんなんだなぁ。 ユリちゃんも大和さんがお義父さんになるなら安心だ。 それにしても霊感のない大和さんから見て、霊媒師なんて仕事胡散臭くないのだろうか? 「あの、大和さんは霊を視たことは……」 「ないねぇ」 「社長の……息子さんの仕事に対して、その、反対とかなかったんでしょうか? 視えない方からしたら怪しいでしょう? 霊媒師なんて」 僕自身、見習いだけど霊媒師だ。 少々聞きにくいけど、思い切って切り出してみる。 すると、 「あははは、確かに視えない私からしたら、理解の難しい部分もあるよ。だけどねぇ、誠はバカだけど嘘をつく子じゃない。あの子が幽霊の存在を肯定するなら、私はそれを信じるよ」 と真っ直ぐに答えてくれた。 「それに、私に幽霊は視えないけれど、1度だけ不思議な体験をしたことがあるんだ。亡くなった妻の声を聞いたことがありましてね。 私の妻は……誠が3才の頃に事故で亡くなったんだけど、当時遠征試合ばかりで、彼女の死を外国の地で知ったの。試合前の控室にマネージャーが『奥様が事故でお亡くなりになったそうです』と血相変えて飛び込んできてさ。それを聞いた私は、動揺して試合どころじゃなくなってしまったんだ、」 それは辛かっただろうな…… 外国じゃあすぐには帰れないだろうし、幼い社長のことも心配だったろうし。 「私はね、妻を心から愛していた。そんな妻がこの世からいなくなったと聞いて世界の終りだと絶望したんだ。試合なんかどうだっていい、ベルトなんかいらない、だから妻を返してくれ、それが無理なら私も死ぬと、控室で大暴れしてねぇ。いや、今思い出すと恥ずかしい」 大和さんは照れくさそうに鼻を掻いた。 だけど、恥ずかしいことなんかあるもんか。 家族が亡くなったら、そりゃあパニックになるよ。
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