第十三章 霊媒師 清水誠

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「私、身体が大きいでしょう? 暴れる私を数人掛かりで押さえつけるんだけどダメでねぇ。そんな時に聞こえたんだ、私をたしなめる妻の声が。姿は視えなかったけど、あれは絶対に妻の声だった」 霊感のない大和さんに届いた声。 突然命を失って、最後にどうしても旦那さんに逢いたいと、強く願った奥さんの想いが奇跡を起こしたんだろうな…… 「妻の言葉は一字一句覚えているよ。実に彼女らしい言葉だった。そのおかげで私は冷静さを取り戻し、試合に勝ち、ベルトを持って誠の元に帰れたんだ」 「え! 試合、出たんですか!?」 棄権したって仕方がない精神状態だったろうに。 それでも大和さんは闘って、しかも勝ったというのか。 「妻にああまで言われちゃ出ない訳にはいかなかった。しかも彼女は私と一緒にリングに上がったんだ。そうなれば鬼に金棒、負ける気はしなかったし、実際、圧勝だったよ」 最愛の奥さんが亡くなって、絶望する大和さんに闘いの決断をさせた言葉とは一体どんなものだったのだろう? 気になる……! 「差し支えなければ……奥さんは大和さんになんと言ったんです?」 「聞きたい?」 大和さんはニヤリと笑って片目を瞑る。 僕の返事はもちろん、 「はい!」 これだ。 「私が妻の元に逝くと暴れていた時、突然、怒鳴り声が聞こえたんです。『泣くな馬鹿野郎! アタシが死んで大和まで死んだら、誠が独りになっちまうだろうがぁッ!』ってね」 「……え? 奥さん、ですよね? その喋り方社長にそっくりじゃないですか……?」 「あははは、乱暴な言葉使いが似てるでしょう? 妻は元ヒールレスラーでしたからねぇ、威勢がよかったんです。『アタシはこんな弱い男と結婚した覚えはねぇ! 嫁が死んだくらいで試合放棄? ふざけんな! ここまで来るのに大和だけが苦労したと思うなよ? まわりの人間がどんだけ頑張ったと思ってる! みんなオマエに夢託してんだよ! そりゃアタシも誠もおんなじだ! 泣くな! さあ立て! 勝ちに行くぞ!』と、尻を蹴られました。あの独特の尖がった感触は妻のリングシューズに間違いありません」
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