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「大和さん、ここから見て1時の方向、約3m先の芝の上。そこにユリちゃんのご家族がいらしてます、」
僕はどこを見たらいいのか迷っている大和さんに藤田家の位置を告げた。
前に社長とキーマンさんが峠に散らばった雑貨を探していた時、“〇時の方向に〇m”と表現していたのを思い出し真似をしてみたのだが、大和さんは「わかりやすいよ」と即座に身体の向きを変えてくれた。
続けて家族の立ち位置の説明に入る。
「いらしてる人数は3人です。向かって右から、お母様の貴子さん、その隣にお婆様、それから……あ! ちょ、そんな動き回って! ちょ、えっ! ズンズンこっちに! 向かってきてるのが! お爺様であるッ! 真さんです、って、待ってーーーーーッ!!」
僕の腰は一瞬で引けた。
ユリちゃんに手を振りつつ参号さんをどつき回していたお爺さんは、僕の姿を見つけた途端、
『岡村じゃねぇかーーーッ!! ※〆@ДΨ※%!!!』
後半なにを言ってるのか解らないくらいの巻き舌で、僕にズンズン詰め寄ってきたのだ!
その迫力に圧倒された僕は、通訳としてあるまじきことに状況を大和さんに説明もせず、
「お爺さん! 落ち着いてください! ちょ! 待って! 今説明しますからー!」
ただただ、お爺さんに落ち着いていただく事に労力を全振りしていた。
だがどうも僕とお爺さんは波長が合わない。
僕がなにか話そうとする同じタイミングで巻き舌が炸裂し、お互いが同時に黙る。
そして幾瞬の間を置いて同時に口を開いてしまうのだ。
このタイミングの悪さがお爺さんのテンションを負の方向に引っ張って、すこぶる機嫌が悪くなる。
こんなことを3回も繰り返せば空気は最悪だ。
「お爺『オカムラッ!』さん!」
「……『…………』……」
「僕の『これは一体、』話を、」
「……『…………』……」
「聞いて『どうなってんだ!』ください」
『だーーーーーーッ! 俺の話を聞けーー!!』
「聞こうとしてますーーーー!!」
もう駄目、挫けそう……と思っていたとその時、僕の視界が濃紺一色に埋め尽くされた。
それが大和さんのデカイ背中と解ったのは数瞬後の事だった。
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