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「失礼ですがユリさんのお爺様でいらしゃいますか? 私、誠の父で清水大和と申します」
大和さんの口調は至って丁寧だった。
大和さんにお爺さんは視えていない。
だけど僕がどこに向かって話していたか、それをちゃんと見ていたのだろう。
少ない誤差で、テンパる僕をお爺さんから庇うように立ちはだかってくれた。
この感じ、既視感……前にも似たような事があった。
そうだ、あれは1カ月と少し前。
初対面だったお爺さんに、僕が貴子さんを滅したと誤解され、チェーンソーを突き付けられた時だ。
他人からあからさまな敵意と攻撃を受けた事のない僕は、怖さと戸惑いで固まり動けずにいた。
あの時、社長は今の大和さんと同じように僕を庇ってくれた。
似ているのは容姿だけじゃない、この親子はこんなとこまでそっくりだった。
『あぁ? 誠の親父? 清水大和……? 言われてみりゃあ面がそっくりだな……で、こりゃあ一体……?』
お爺さんは、キョロキョロと辺りを見渡した。
『ここは……民家……てことは、誠の実家か? で、なんでここに俺らが呼ばれた? ユリもいる、岡村もいる、持丸さんも、誠の親父もいる。誠は……? 誠もいるのか?』
どうやら壱号さん達は、藤田家を連れてきただけで事情は説明してないみたいだ。
てか話すことができないから仕方ないけど。
ああ、だけどそうか、なるほど。
藤田家の皆さんは、なにも知らずに黄泉の国から、突然現れた怪しさ満点の壱号さん達にさらわれるように連れて来られたんだ。
事情も目的地もわからず、そりゃあお爺さんの温度も高くなるわ。
社長もせめて壱号さん達に手紙でも持たせれば良かったのに。
ん? ちょっと待って?
事情を知らなかった割には来て早々『ユリィィィィ!』って叫んでなかった?
あれか……? もしかして山の男の勘というヤツか?
まあ、でも、藤田家が揃って呼ばれる理由といったら、まずユリちゃんになにかあったと思うのが自然か。
お爺さん!
勘はドンピシャですよ!
大和さんのおかげで気持ちを落ち着かせることができた僕は、本来の仕事を思い出し、ドデカイ背中からひょっこりと顔を出した。
「大和さん、ありがとうございます。取り乱してすみませんでした。ここからは僕が通訳させていただきます。
藤田家の皆さん、お久しぶりです。突然お呼び立てして申し訳ありません。ですが、またこうしてお会いする事ができて嬉しいです」
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