第十三章 霊媒師 清水誠

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◆ 「本日は____」 社長のデカイ声にみんなが注目した。 「真さん、婆さん、貴子さん。忙しいトコ急に呼び出して悪かったな。今日集まってもらったのは大事な話があってよ。実は、(パァン!!)痛ッ!!」 僕からしたら(おそらくユリちゃんも先代も)いつも通りの社長の出だしに、大和さんの裏拳が火を噴いた。 「親父! 人が喋ってんのなにすんだよ!」 涙目で額を押さえる社長に、大和さんがギンッと息子を睨みつけ、 「誠、皆さんに無礼をお詫びしなさい。そしてきちんとした言葉使いでやり直しなさい」 と静かに言った。 先程までの穏やかさは1ミリも感じない。 笑顔が消えた無表情には異様なくらいの迫力を感じる、てか怖…… 「いいんだよ! 俺と藤田家は初対面じゃねぇんだから! 先月はみんなでケーキ食っ、」 社長の抗議を最後まで聞く気のない大和さんは、ぴしゃりとそれを遮った。 「誠、何度も言わせるな。おまえが皆さんと面識があろうがなかろうが関係ない。これはケジメだ。おまえはユリさんと家族になりたいのだろう?」 「ああ、そうだ! 俺はユリと一緒になりてぇ! 人生を賭けてユリを幸せにするって決めたんだ!」 社長のこの一言に、ユリちゃんとお婆さんと貴子さんの3人はキャー!と頬を染めて盛り上がった。 さりげなく女性陣を味方につけたっぽいな、コレ。 「本気でそう思っているのか?」 「あったりめぇだ!」 「だったら筋を通せ。ユリさんが大事なのは誠だけじゃあない。藤田家の皆さんはもっと大事に想っているはずだ。そんな大事な娘さんを場も礼儀わきまえない男と結婚させたいなどと思えるか? 私なら反対だ」 常識人キターーーーー!! って、こんな言い方不謹慎だけど、大和さんの至極真っ当な意見に僕は今、猛烈に感動している。 株式会社おくりびに入社して約2カ月。 あまりに自由な面々に僕が真面目すぎるのだろうか? と自問する日もあった。 だがしかし、真面目でなにが悪い!(悪いなんて言われてないけど) 両家の顔合わせという特別な日くらい、おふざけは封印して然るべきなのだ! とは言っても。 社長の事だ、きっとムキになって反論してくるんだろうな。 それに……藤田家にはお爺さんがいる。 今は孫の結婚がショックで大人しくしてるけど、ひとたび調子を取り戻せば社長以上の口の悪さが露見するはずだ。 しんと静まった部屋の中、最初に口を開いたのはお爺さんだった。 『岡村ぁ、テメ……いや、おまえ、今日通訳だって言ったよな?』 お爺さん、僕を“テメェ”と言いかけて、“おまえ”と言い直してくれた。 お爺さんが僕を呼ぶ時は“テメェ”がデフォルトだったはず。 えっと……どうしちゃったの? 『誠の親父……大和だっけ? ちょっと話させろや』 大和さんをいきなり呼び捨てにするお爺さんに度肝を抜かれつつ「わかりました」と返事をした僕は、 「大和さん、お話の途中ですみません。ユリちゃんのお爺さんがお話したい事があるそうです」 と声をかけた。
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